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◇
アリッサムに対して、ある疑念を抱いた俺は、日曜日にアダムスミス公爵家に向かった。
アリッサムの真実を確かめるためだった。
執事の運転する車でアダムスミス公爵家に着くと、庭先でアリッサムの声がした。
声の方角に視線を向けると、体格のいい侍女と男性の姿が見えた。アリッサムの兄に違いない。
アリッサムに取り次いでもらうために、声を掛けようとしたが、侍女が芝生に躓き二人は折り重なるように倒れた。
その時……。
男性の顔が見えたんだ。
好きな女を見間違えるはずはない。
あれは……男装したアリッサム!?
学校では女子の制服を着ているくせに、どうして自宅で男装しているんだよ。
二人は見つめ合ったまま暫く動かない。
侍女の顔に、どこか見覚えがあった。
白いキャップを頭につけているが……
あの顔の輪郭、目元、口元……。
――ジョ、ジョンソン先生!?
どうしてジョンソン先生が侍女の恰好をしているんだ!?
車の音がして、二人は木蔭に隠れた。車に乗っていたのはアリッサムの兄と貴婦人だった。
アリッサムとジョンソン先生は体を密着させ、息を潜めている。なぜ隠れているのか、俺にはその理由がわからない。
――そして……。
俺は衝撃的な現場を目撃した。
二人が……
キスを交わしたんだ……。
侍女が本当にジョンソン先生なのか確かめたくて、二人のあとをつけた。
アダムスミス公爵邸には広い庭を挟み本宅と別宅がある。二人は揃って別宅に向かい、そのまま室内に消えた。
庭に面したリビングのレースのカーテンが、ゆらゆらと風に揺れている。カーテンの隙間から時折見える二人の姿。
男装したアリッサムが窓に近付いた。
その時、ハッキリ見えたんだ。
二人の顔が……。
間違いない。
あれはジョンソン先生だ。
ジョンソン先生がどうしてアダムスミス公爵家の侍女を? どうしてこの家にいるんだよ?
ジョンソン先生は女装趣味があるのか?
それとも世間の目を欺くため?
どうして女装してまで、世間の目を欺かないといけないんだ?
――まさか……二人はこの屋敷で同棲しているのか!?
疑惑が脳内を渦巻き、怒りが沸々と湧き起こる。
学校では真面目で誠実な教師が、私生活では女装して生徒の侍女をしているなんて!
全身が凍り付くような、ゆゆしき事態。
名門セントマリアンジェ校の恥……。
ジョンソン先生は教師失格だ。
生徒とコソコソと同棲するなんて許せないよ。
教師のくせに……このままで済むと思うなよ。
――翌日、俺は悶々としたまま登校した。
「ロータス、おはよう」
「アリッサム、おはよう」
アリッサムは昨日のことを俺に見られていたとは知る由もない。
「アリッサムのご両親は海外に旅行中なんだよね?」
「そうだけど、それがどうかした?」
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