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俺は渡されたブルーのドレスに白いエプロンを着用する。頭には白いキャップを被り丸い眼鏡をつける。鏡に映る俺を見て、アリッサムは吹き出した。
「……プッ、コーネリアに似てる」
女装した俺を見てケラケラ笑っているアリッサム。アリッサムにのせられて女装してしまったことを深く後悔した。
アリッサムは誰もいない本宅に忍び込み、ジンジャーの洋服に身を包む。女装している時とは異なり、男物の洋服を身につけると凛々しく感じるから不思議だ。
俺達は薔薇の咲き乱れる庭を散歩する。
ここに移住して、二人で庭を歩くなんて初めてだった。
「アリッサムはやっぱり男物がよく似合ってるな。凛々しくてかっこいいよ。女装なんてもうやめろ」
「それどういう意味? 男物の洋服の方がドレスよりも似合うって言いたいの?」
そういう意味じゃないけど。
ドレスアップしているアリッサムは、男の娘というより、女性にしか見えなくてドキドキして近付けない。
「アスターも女装似合ってるよ。ぷ、ぷ、ぷ」
笑いながら逃げ惑うアリッサムを俺は追いかける。
「笑うな」
慣れないハイヒールに躓いた俺は、アリッサムの体に激突して転倒してしまった。
ドスンと大きな音をたてて、俺はアリッサムの体の上に落ちる。アリッサムは「きゃっ」と、女性みたいに小さな悲鳴を上げた。
「……重っ! アスターはドジなんだから」
「しょうがないだろう。男の俺にハイヒールなんて履かせるからだ」
見つめ合う目と目……。
アリッサムの手が、俺の頬に触れた。
美しい手……。
細くて白い指……。
どうしてアリッサムは……。
男なんだよ。
アリッサムはこんなにも……。
美しいのに。
「アスター……」
アリッサムは俺の下で、瞼を閉じた。
俺はその美しさに、思わず息をのむ。
太陽の陽射しが、俺達を照らした。
その時、「ワンワン」と近所の犬が吠えた。……と、同時にカサカサと木の葉が揺れる音がした。
俺達は近所の犬が庭に迷い込んだと勝手に解釈した。
この庭の片隅で息を潜めて俺達を見つめていた訪問者がいたことを、俺達が気付くはずもなかった。
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