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 キスって、か?

 まさか、学校で?

 教室の中で……!? 


 そんなこと、許さない!


「ジョンソン先生、落ち着いて。いつまでボクの指冷やしてるの? 冷たいんだけど」


 ジャージャーと音を立てて流れる水道を慌てて止める。


 アリッサムはどこまでも上から目線だ。


「そうだよ、キスされたんだ。ボクのことが好きなんだって。相手はジョーンズ公爵家のなんだよ。機嫌を損ねたら大変だよね。ボク、どうしたらいい?」


 どうして俺に聞くんだよ!

 自分もアダムスミス公爵家のだと断言すればいいだろう。


 女装なんかするから、男の娘だと勘違いされるんだ。


「なるほど、ジョーンズ君に学校でキスされたんだな。教師として見過ごすわけにはいかないな」


 俺、かなりショックかも。

 このまま寝込んでしまいたい。


「安心して。ボクはロータスと付き合う気はないから」


「べ、別に付き合ってもいいが、卒業してからにしろ。学校関係者に知れたら、停学じゃすまないよ。それに俺は教師なんだ。どんなときもアリッサムの味方とは限らない」


 俺は何を言ってるんだ。

 ショックのあまり血迷ったか。


 アリッサムが俺を見て口元を緩ませ、ギュッと抱きついた。アリッサムに抱きつかれて、ドキッとする。


 アリッサムの柔らかな肌……。

 ほのかに香るアリッサムの匂い……。

 俺に抱き着いて、ジョーンズとのキスを誤魔化そうとしてもそうはいかないよ。


「ヤキモチを妬いてよ。ロータスと交際しろなんて、そんな酷いこと言わないで」


 耳元でアリッサムが囁く。それだけで体が熱くなる。俺もジョーンズと同じだ。同性のアリッサムに惑わされている。


「アリッサムは公爵令息なんだ。つり合う相手と交際すればいい」


「どうしてそんなことを言うの?」


「世間の常識を話しているんだ」


「世間の常識ってなに? 交際は周りが決めることじゃないでしょ? ボクは……ボクの気持ちはどうなんだよ」


 アリッサムは俺の心をギュッと掴んで離さない。


「アスターこっちを見て。ボクの目をちゃんと見て」


 アリッサムの目を見れないよ。

 もし目を合わせたら、俺の本心がバレてしまうから。


「アスターは本当に意地悪だね」


 アリッサムがつま先立ちをし、俺の頬にキスをした。


 俺は目を見開いたまま固まっている。


 ――その時、玄関がガチャンと音を鳴らし、カンカンと甲高い靴音がした。俺に抱きついているアリッサムは、ニヤリと口角を引き上げた。


「アスター? アリッサム? いないのか?」


 玄関フロアでジンジャーの声がする。

 焦っている俺を愉しむかのように、アリッサムは粘着テープのように貼り付いて離れない。


 俺達の名前を呼ぶ大きな声と靴音が、徐々にキッチンに近付く。こんなところをジンジャーに見られてしまったら、俺は剣で斬り殺されてしまうだろう。

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