アスターside

50

「ただいま」


 玄関を開けると、ローストハーブチキンのいい匂いがした。俺の大好物だ。


 本宅からメイドでも来ているのかな?

 キッチンを覗くと、制服姿のアリッサムが俺を優しく迎えた。料理をしているアリッサム。男子なのに、料理の腕は女性より優れているから不思議だ。


「いい匂いだな。ローストハーブチキンだよな」


「うん、もうすぐ出来るよ。アスター着替えて、テーブルで待ってて」


「アリッサム、忙しいのに俺の夕食なんて作らなくていいんだよ。俺だって料理くらいできる。ずっと一人暮らしだったし、メイドもいなかったからね」


「アスターが料理? それ食べれるの?」


 ケラケラと笑うアリッサム。

 癪に障るけど、あたってるよ。


 俺が作るとステーキは丸焦げ、パスタは芯が残り硬い。


 確かに俺が一時間も二時間もかかる料理を、アリッサムは三十分くらいで作ってしまう。


「アリッサム、ジョーンズは役員会を休んだみたいだな。あんなに張り切っていたのにどうした?」


「体調が悪くなったみたい」


「体調が? あんなにピンピンしていたのに?」


「アスターだって、急に具合が悪くなることもあるでしょ」


「あるけどさ」


 アリッサムの様子が明らかにおかしい。一人でテンパってる。グリルのタイマーがチンッと音を鳴らした。グリルを開け、アリッサムは「アチッ」と声を漏らした。


「大丈夫か!?」


 俺はアリッサムに走り寄り手を掴む。

 右手の指先が少し赤くなっていた。


「なにやってんだよ。天板で火傷したのか」


「これくらい大丈夫だよ」


「大丈夫じゃない! 痕が残ったらどうするんだよ」


 俺はシンクで水を出しアリッサムの指先を冷水に浸す。


「何かあったんだろう。アリッサム、 白状しろ。ジョーンズと喧嘩でもしたのか?」


「その逆だよ」


「逆? 何が逆なんだ? 火傷した指か?」


「ロータスと喧嘩してない。告白されたんだ」


「……告白?」


「ジョーンズ公爵に話して了承を取るから、正式に交際して欲しいって」


「正式に交際? まてまて、ジョーンズは男子だよな? もしかして男装しているが本当は女子なのか!?」


「バカバカしい。あのロータスが女子に見える?」


「見えないけど、わからないだろう? 俺はアリッサムが誰と交際しても構わないが、ジョーンズ公爵はその……理解者なのか?」


 ていうか、学生のくせに何が正式に交際だ。

 一人前の大人になってから言え。

 俺は、そんなこと認めない。


 いや、まて。

 俺とアリッサムも同性なんだ……。


「今日、ロータスにキスされた」


「はぁー!? キ、キ、キス!?」


 俺の思考回路は、アリッサムの一言でショートした。

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