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――視聴覚室を出て、ボクは真っ直ぐ教室に戻った。
教室に入ると、すぐにジョーンズ君が近付いて来た。
「アリッサム、どこに行ってたんだよ? 随分探したんだよ」
「ごめん、屋上に行ってたんだ」
「屋上? さっき行ったんだけど擦れ違ったのかな」
「きっとそうだよ。たまには空を見ながらランチしたくなったんだ」
「それなら誘ってくれたらよかったのに。俺も屋上でランチしたかったな」
――ていうか、ボクはジョーンズ君の彼女じゃないし、ただのクラスメイトだよ。一日中隣に座ってるのに、ランチタイムくらい解放して欲しい。
だってボクは、ジョーンズ君に友達以上の感情は持っていない。ボクが好きなのは、アスターだから。
「アリッサム、今日の放課後は役員会だね」
「あっそうか、忘れてた」
「忘れてたのか? 俺はずっと楽しみにしてたんだよ。アリッサムと放課後過ごせるなんて、俺は学校一の幸せ者だよ」
「大袈裟だな」
放課後は役員会だよ。
デートと勘違いしてるよね。
ボクに特別な感情はないってことを、ちゃんと伝えないと。
「あのさ……ロータス……。ボクのこと」
「なに?」
チャイムが鳴り、言葉が遮断される。
「アリッサム、なに?」
「授業始まるから、放課後でいい」
「なんだよ。気になるだろう」
ジョーンズ君は爽やかな笑顔を向けた。
美男子にジッと見つめられ、鼓動がトクンと跳ねた。
午後の授業は数学。アスターの授業だ。
コツコツと靴音がし、アスターが教室に入って来た。
さっきまでの顔とは異なり、凛とした教師の顔をしている。
でも本当は鈍感で単純で、ボクや兄の嘘をいまだに信じている。一度インプットされた嘘をとことん信じるなんて、子供みたいに純粋なのかな。
教室では真面目な顔をしているけど、ボクがハグしたらテンパッて赤くなるんだよね。
ボクしか知らないアスターの顔。
意外と可愛いんだから。
教壇に立つアスターに、ボクはつい見とれてしまう。ボクの視線に気付いて、アスターと視線が重なった。
ボクがニコッて笑うと、アスターは一瞬ギョッとし慌てて視線を逸らした。
アスターの困り顔を見ていると、もっと困らせたくなる。視聴覚室でのやり取りを思い出し、自然と顔がニヤけた。
ボクはアスターに熱い視線を投げかける。
アスターのことが……好きだよ。
ねぇアスター……気付いてよ。
アスターは意地悪だな。
ボクを無視しないで。
ボクは瞳で囁きながら、アスターだけを見つめていた。クラスメイトの存在なんて気にならないくらい、アスターに夢中になっていたんだ。
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