46

 ――視聴覚室を出て、ボクは真っ直ぐ教室に戻った。

 教室に入ると、すぐにジョーンズ君が近付いて来た。


「アリッサム、どこに行ってたんだよ? 随分探したんだよ」


「ごめん、屋上に行ってたんだ」


「屋上? さっき行ったんだけど擦れ違ったのかな」


「きっとそうだよ。たまには空を見ながらランチしたくなったんだ」


「それなら誘ってくれたらよかったのに。俺も屋上でランチしたかったな」


 ――ていうか、ボクはジョーンズ君の彼女じゃないし、ただのクラスメイトだよ。一日中隣に座ってるのに、ランチタイムくらい解放して欲しい。


 だってボクは、ジョーンズ君に友達以上の感情は持っていない。ボクが好きなのは、アスターだから。


「アリッサム、今日の放課後は役員会だね」


「あっそうか、忘れてた」


「忘れてたのか? 俺はずっと楽しみにしてたんだよ。アリッサムと放課後過ごせるなんて、俺は学校一の幸せ者だよ」


「大袈裟だな」


 放課後は役員会だよ。

 デートと勘違いしてるよね。


 ボクに特別な感情はないってことを、ちゃんと伝えないと。


「あのさ……ロータス……。ボクのこと」


「なに?」


 チャイムが鳴り、言葉が遮断される。


「アリッサム、なに?」


「授業始まるから、放課後でいい」


「なんだよ。気になるだろう」


 ジョーンズ君は爽やかな笑顔を向けた。

 美男子にジッと見つめられ、鼓動がトクンと跳ねた。


 午後の授業は数学。アスターの授業だ。

 コツコツと靴音がし、アスターが教室に入って来た。


 さっきまでの顔とは異なり、凛とした教師の顔をしている。


 でも本当は鈍感で単純で、ボクや兄の嘘をいまだに信じている。一度インプットされた嘘をとことん信じるなんて、子供みたいに純粋なのかな。


 教室では真面目な顔をしているけど、ボクがハグしたらテンパッて赤くなるんだよね。


 ボクしか知らないアスターの顔。

 意外と可愛いんだから。


 教壇に立つアスターに、ボクはつい見とれてしまう。ボクの視線に気付いて、アスターと視線が重なった。


 ボクがニコッて笑うと、アスターは一瞬ギョッとし慌てて視線を逸らした。


 アスターの困り顔を見ていると、もっと困らせたくなる。視聴覚室でのやり取りを思い出し、自然と顔がニヤけた。


 ボクはアスターに熱い視線を投げかける。


 アスターのことが……好きだよ。

 ねぇアスター……気付いてよ。


 アスターは意地悪だな。

 ボクを無視しないで。


 ボクは瞳で囁きながら、アスターだけを見つめていた。クラスメイトの存在なんて気にならないくらい、アスターに夢中になっていたんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る