アリッサムside

45

 ボクに纏わりついて離れないジョーンズ君をまいて、視聴覚室に向かった。


 アスターがここで一人でランチをしていることは、昨夜アスターから聞いて知っていたからだ。


 ボク達は学校で密会したことは、今までに一度もない。学校ではあくまでも『教師と生徒』だとしつこいくらい念を押すアスターに、ボクが渋々従っている。


 ボク達の同居が理事長や校長にしれて、アスターに迷惑を掛けたくなかったからだ。


 でも今日は、ブラウン先生とアスターが廊下で仲良く話をしているのを見てしまった。ブラウン先生はいつも凛としていて生徒には厳しいのに、まるで恋をするメス猫みたいな目でアスターを見つめていた。


 二人はただ話をしていただけなのに、ボクにはすぐにピンときた。ブラウン先生はアスターのことが好きなんだって。


 アスターはブラウン先生の気持ちを知っているのか、その熱い視線が妙に苛ついた。


 ボクに向けることのない男の眼差し。

 二人は大人だし、教師だし、雰囲気もお似合いだし、ブラウン先生は美人教師だし……。


 ボクはヤキモチを妬いていたんだよ。

 アスターがジョーンズ君にヤキモチを妬く以上に。


 だからジョーンズ君を振り切って、視聴覚室に向かった。


 アスターの本当の気持ちを知りたかったから。


 視聴覚室で二人きり、ボクはアスターに気持ちを伝えたくてドアに内鍵をかけた。


 アスターのいつもの口癖、『ダメだ』そう言われると、ボクはますますアスターを抱き締めたくなる。


 アスターの気持ちを確かめたくて、ボクはアスターに抱き付いた。


 アスターは驚きを隠せない。


 アスターはボクのことが好きなんだって、そう思っていいんだよね?


 アスターはボクに一度も『好き』って言ってくれないから、ボクは不安なんだよ。


 ボクがまだ学生だから相手にしてくれないの?


 一緒に暮らしているのに、毎日顔を合わせているのに、ボクはいつもいつも不安で……。


 聞かせて欲しいんだ。


 アスターの本当の気持ちを……。

 一言でいいんだ。


『好きだよ』って、囁いて。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る