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 数分待ってみたが、結局他に立候補者はゼロ。二名の立候補者がいるのに、それを担任として拒否するのは明らかにおかしい。


「じゃあ、ジョーンズさんとアダムスミスさんに決定します。早速ですが、今日の放課後、役員会があるので出席するように」


「はい。頑張ろうね、アリッサム」


「うん」


 ジョーンズを見て、アリッサムがニコッと笑った。


 アリッサムは目鼻立ちの整った美少年だ。


 公爵家の気品を漂わせる愛らしい笑顔。

 まるで貴公子のような立ち振る舞い。

 その美しさに女子だけではなく男子さえも魅了されている。


 そもそも、この学校の生徒は男装も女装も自由だ。しかも、個人名簿には性別は明記されていない。だとしたら、誰が男で誰が女かなんて、俺にはわからないよ。


「これで朝のホームルームは終わります」


 俺はイチャイチャしている二人が気になりながらも、背を向けて教室を出る。


 俺が教室を出ると、勢いよく後方のドアが開きパタパタと飛び出した者がいた。


 ――その靴音は、アリッサムだ。


「ジョンソン先生! この問題どうしても解けなくて、教えて下さい」


「えっ? 今ここで?」


「はい。今ここで」


 俺は立ち止まり、アリッサムが差し出した数学のテキストに視線を落とす。これは昨日の夜、別宅でやった問題だ。ちゃんと解けていたし、何の問題もなかったはず。


 俺は『なんだよ』と、目で問いかける。

 アリッサムは俺の耳元で呟いた。


「アスター、役員会あるから、食事の支度遅くなるけどいい?」


「……っ、こんなところで、な、何を言ってるんだ」


 ここは学校の廊下だ。

 しかも教室は目の前。


 みんなが静かにしてるからいいようなものの、以前勤務していた学校だったら、全員が廊下に飛び出しヤジを飛ばされていた。


「役員は自分が引き受けたんだ。責任持ってやりなさい」


 俺はテキストを突き返し、思わず教師口調になる。


「アスターはつまんない大人だね」


「な、な、な、名前で呼ぶな」


「はいはい。ジョンソン先生」


 アリッサムはわざと俺を困らせて楽しんでいる。


 さっきまでジョーンズに嫉妬していた俺の心を、まるで見透かしているようだ。


 こいつは美少年の皮を被ってはいるが、筋金入りの小悪魔だ。


「この学校は交際禁止だから、ジョーンズとの交際も禁止するからな」


「は? ジョーンズとの交際? それ本気で言ってる?」


「以上だ」


 俺は思わず、アリッサムを睨みつける。

 大人げない、これでは嫉妬心剥き出しだ。


「もしかして、妬いてるの?」


「何を言ってるんだ。妬くわけないだろ。俺は学校の規則を述べたまで」


「ははん、妬いてるんだ。ロータスは確かにハンサムだよね。かっこいいし、スポーツ万能だし、公爵家の令息だし」


「ジョーンズは男子に間違いないんだな」


 アリッサムは『はあ?』って、顔をした。俺を小馬鹿にしているようだが、本当に性別がわからないんだよ。


「ジョンソン先生」


 背後でジョーンズの声がした。

 驚きのあまり、心臓が飛び跳ねる。

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