アリッサムside

34

 ボクは気まぐれな兄に、再び家を追い出された。


 兄は両親が不在の間、あの女性と同棲をすると言い出した。あの女性はどうやら王室の侍女らしく離婚歴があり、国王陛下とトラブルを起こし城から逃げ出したらしい。


 女性が王室で働いていたとは、意外だったけど、離婚の原因が兄でないことを願いたいものだ。


 アスターのいうとおり、女性は確かに美人ではあるが、男ってどうして人妻に魅力を感じるのかな。不貞をしてまで、兄と交際をするなんて、あの女性の気がしれないよ。


 二人が国王陛下に背いてまで同棲する意味が、ボクには理解不能だ。


 でも兄が同棲を強行したお陰で、ボクは別宅に転がり込むことができる。


 八月の終わりに、アスターとキスを交わしてから、この四ヶ月ボクはアスターから避けられてきた。


 別宅を訪ねても一歩も入れてくれないし、学校でも目を合わせてくれない。だからこの四ヵ月、アスターの手に触れることもなかった。


 ボクはもう……限界だよ。


 無視されることが、寂しくて、辛くて、腹立だしくて。


 あの日のキスをなかったことにするなんて、大人って本当に狡いんだから。


 アスターがボクとの記憶を消去するなら、ボクが思い出させてあげる。


 そのための計画は、もうできている。

 昨夜、一生懸命考えたんだ。


 大好きなアスターの気持ちを確かめるために、先ずは頬に挨拶のキスをする。


 これでボクの存在を脳にインプットする。スイッチがONになってしまったアスターは、きっと慌てふためくだろう。


 兄とは異なり女性に興味のないアスター。どんなにモーションをかけても、男の性は理性に封じ込めたままだ。


 その理性をぶっ壊すために、荷物を運んでくれたアスターにボクはお礼のキスをする。


 アスターは目を見開き戸惑うが、きっと喜んでくれるはずだ。アスターだって、ボクのキスには叶わない。


 万が一、アスターに冷たくされても、ボクは怯まないよ。


 別宅がアスターとボクの寄宿舎になる。

 その形式的な寄宿舎が二人の愛の巣になるなら、鈍感でバカがつくくらい真面目で堅物なアスターに、ボクの真実を知られてもいい。

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