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「門限が午後八時なんて、あり得ないよ。でも、アスターありがとう。どうせなら、同じ寝室にして欲しいな。ボクはこう見えても怖がりなんだ。夜一人になると幽霊を見るんだ」
「もしもし、そんな話は一度も聞いたことないよ。アリッサムに霊感なんてないだろう」
「ちぇっ、バレたか」
アリッサムは俺をチラッと見ると、頬にチュッて軽くキスをした。
「うわ、わ、わ、何してんだよ!」
「アスターは大人のくせにテンパると可愛いんだから。落ち着いて、落ち着いて、別に取って食べるわけじゃないし。スキンシップだよ」
「……っ、この三ヶ月間、俺は教師の信念を貫いた。それを数分で覆すとは」
「覆す?」
アリッサムは口元を緩め、俺を見つめた。
「……いや何でもない。荷物、客室に持って行くよ」
「ジョンソン先生、ありがとう」
「こういう時だけ、先生って呼ぶな」
俺は無言で荷物を二階に運ぶ。
アリッサムは俺の後ろを兎みたいにピョンピョン跳ねながらついてくる。
俺……
大丈夫かな。
アリッサムのことを、すでに意識している。
客室のドアを開け、クローゼットの前にボストンバッグを下ろす。振り向くと、アリッサムが俺にキスをした。
「……っああああ」
「ありがとうアスター。おやすみなさい」
使用人風に変装しているが、その眼差しは美しい公爵令息……。
「な、なにを……!? アリッサム!」
「わかってる。もうキスはしない。ここは二人だけの寄宿舎。そうだよね」
わかってるなら、なぜキスをした。
俺の心のスイッチを押しておいて、もうキスはしないと断言するとは。そんなこと信用できないよ。
俺はどうやら十八歳のアリッサムに、心を操られているようだ。
「もしもまたこんなことを繰り返すなら、俺はここには住めない。その時は、出て行くよ」
ここはジンジャーの好意で家賃は無料だ。できることならば、宿舎ではなく好意に甘えてこのままここで暮らしたい。
男性教師と生徒が二人きりで同居するなんて、不道徳なことはわかっている。
わかっているくせに、俺はアリッサムを拒むことが出来なかった。
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