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 ドアを開けると、口を尖らせた膨れっ面の可愛い……じゃない、憎たらしいアリッサムが立っていた。


「アスター! 遅いよ。早く開けてよ」


「そんなこと俺に言われても」


「はい。これ重いんだからね。ここに住むことはメイドや使用人にも秘密なんだから、荷物くらい部屋まで運んでよ」


「荷物……」


 アリッサムに渡されたのは、大きなボストンバッグが二つ。


「重っ……! 何が入ってるんだよ」


「教科書や参考書、それに制服と私服。近隣住民に噂されないように、わざわざ変装してきたんだから。感謝してよ」


 アリッサムは俺のためにわざわざ変装して別宅に来たような言いぐさだ。


 誤解しては困る。俺はまだ同居を承諾していない。ここが寄宿舎だって? ここはアダムスミス公爵家の別宅だ。学校指定の寄宿舎に住めばいいだろう。


「本気で別宅に住む気か? 寄宿……」


 アリッサムはムッとした顔で俺を睨みつけた。


「ここはボク専用の寄宿舎だとお兄様が言ったんだ。お兄様はメイドも使用人もクビにして、あのおばさんと二人でイチャイチャしてるんだよ。このボクですら邪魔者扱いだ。

 おばさんは鼻歌を口ずさみながら張り切ってキッチンで何か作ってるし。包丁を触ったことないらしく、胡瓜が首飾りみたいに繋がってるんだよ、あり得ないだろう。

 お兄様と王室の話しをしていたのを盗み聞きしたんだ。もしかして、あのおばさん王室の侍女だったのかな?」


「キッチンで料理しているのならそうかもな。アリッサム、ジンジャーの恋人を『おばさん』と呼ぶのはやめろ。失礼だろ」


「アスターはおばさんの味方なんだね。どうせボクは邪魔者だよ。でも、学校の寄宿舎には入らないからね。ボクが気に入らないなら、アスターが教職員の宿舎に入ればいい」


「……っ、それは困る」


 教職員の宿舎は門限や規則が厳しくて、考えただけで息が詰まりそうだ。


 困惑している俺を見て、アリッサムが大きく溜息を吐いた。


「はぁ……。アスターもボクを追い出すつもりなんだね? いーよ。わかった。公園で野宿するよ。うん、そーする。そーすればいいんだよね? アダムスミス公爵の令息が野宿だなんて、暴漢に襲われて、身代金目的の誘拐をされて、挙げ句に殺されるんだ」


 アリッサムはありもしない事件を想定し、目を伏せて俺をチラッと見た。


 野宿なんてする気もないくせに、わざとらしいんだから。暴漢に襲われても、アリッサムなら一網打尽だろう。喧嘩は俺より強いんだから。


「わかったよ。泊めればいいんだろ。だけどアリッサムは客室だからな。俺達は単なる同居人。この屋敷は今日から寄宿舎だと思え。門限は午後八時、いいな」


 やばい……。

 つい情に流され、アリッサムを受け入れてしまった。

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