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「野獣はジンジャーだろ。俺はアリッサムが男でも女でも襲ったりしないよ」


「男でも女でも? お前……」


「バ、バカ。勘違いするな。俺はそんな話をしてるんじゃない。俺はアリッサムの担任なんだよ。二度と別宅にアリッサムをよこすな。いいな」


「アスターがアリッサムの担任なのか? 両親は世界一周旅行で当分帰国しない。俺がアリッサムの保護者代わりだから宜しくな。学校行事も進路相談も俺が行くからな」


「……まじか。最悪だな」


「アリッサム、今から彼女を自宅まで送ってくるよ。夕飯はいらないから。アスターと先に食べてろ」


「……お、おい。ジンジャー、俺の話を聞いてたのか? 俺とアリッサムは教師と生徒なんだからな。校外で個人的な付き合いはしない」


「はいはい。じゃあ行ってきます。アリッサムの料理は絶品だぞ」


 ジンジャーは車のキーを掴むとヒラヒラと手を振り、彼女と一緒に屋敷を出て行った。


 残された俺の目の前にはフランスパン。

 アリッサムの目の前には、彼女のために作ったパスタ。


「明日からシェフもメイドも屋敷に戻る。そのパスタはアスターが食べていいよ」


「いいのか? でもニ人きりで夕食だなんて……」


「食べたくないなら別にいい。自分で食べるから」


 アリッサムは鮏とじゃがいものクリームパスタを俺の目の前で美味そうに食べる。俺はその匂いを嗅ぎながらフライパンに齧り付く。


「アリッサム、ジンジャーはいつもあんな調子なのか? もしかして夕食はいつも一人で?」


 アリッサムはクリームパスタを食べながら俺を見つめた。


「メイドが傍にいるし一人じゃない。お兄様はお父様の仕事を代行しているから忙しいんだよ。夕食は一人だけど、それが何か問題でも?」


 アリッサムの心の問題が、俺は心配なんだ。


「両親に戻ってきてもらった方が……」


「ボクは子供じゃない。料理だってできるし、いつだって自立できるんだから」


「そうか。寂しくないか?」


「寂しい? アスターも一人で食事してるだろう。それって寂しいの?」


「俺は大人だから、寂しくないよ」


「ボクも大人だから、寂しくないよ」


 そう言い切ったアリッサムの目が、俺には寂しそうに見えた。体は成長しても、心はまだ親の愛情を欲してるに違いない。


「何かあれば相談に乗るよ」


「それ、幼なじみとして? 担任として? 男として? 恋人として?」


「た、担任に決まってるだろう」


 昨日までとは違う俺達の関係。

 本当は幼なじみとして、アリッサムの傍にいてやりたかったが、そうも言っていられない。


「フランスパンもらって行くな。アリッサム、明日学校で」


「はい。ジョンソン先生、おやすみなさい」


 アリッサムはわざとらしく、俺をジョンソン先生と呼んだ。俺はこれで教師と生徒に戻れたと信じていた。

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