29
「野獣はジンジャーだろ。俺はアリッサムが男でも女でも襲ったりしないよ」
「男でも女でも? お前……」
「バ、バカ。勘違いするな。俺はそんな話をしてるんじゃない。俺はアリッサムの担任なんだよ。二度と別宅にアリッサムをよこすな。いいな」
「アスターがアリッサムの担任なのか? 両親は世界一周旅行で当分帰国しない。俺がアリッサムの保護者代わりだから宜しくな。学校行事も進路相談も俺が行くからな」
「……まじか。最悪だな」
「アリッサム、今から彼女を自宅まで送ってくるよ。夕飯はいらないから。アスターと先に食べてろ」
「……お、おい。ジンジャー、俺の話を聞いてたのか? 俺とアリッサムは教師と生徒なんだからな。校外で個人的な付き合いはしない」
「はいはい。じゃあ行ってきます。アリッサムの料理は絶品だぞ」
ジンジャーは車のキーを掴むとヒラヒラと手を振り、彼女と一緒に屋敷を出て行った。
残された俺の目の前にはフランスパン。
アリッサムの目の前には、彼女のために作ったパスタ。
「明日からシェフもメイドも屋敷に戻る。そのパスタはアスターが食べていいよ」
「いいのか? でもニ人きりで夕食だなんて……」
「食べたくないなら別にいい。自分で食べるから」
アリッサムは鮏とじゃがいものクリームパスタを俺の目の前で美味そうに食べる。俺はその匂いを嗅ぎながらフライパンに齧り付く。
「アリッサム、ジンジャーはいつもあんな調子なのか? もしかして夕食はいつも一人で?」
アリッサムはクリームパスタを食べながら俺を見つめた。
「メイドが傍にいるし一人じゃない。お兄様はお父様の仕事を代行しているから忙しいんだよ。夕食は一人だけど、それが何か問題でも?」
アリッサムの心の問題が、俺は心配なんだ。
「両親に戻ってきてもらった方が……」
「ボクは子供じゃない。料理だってできるし、いつだって自立できるんだから」
「そうか。寂しくないか?」
「寂しい? アスターも一人で食事してるだろう。それって寂しいの?」
「俺は大人だから、寂しくないよ」
「ボクも大人だから、寂しくないよ」
そう言い切ったアリッサムの目が、俺には寂しそうに見えた。体は成長しても、心はまだ親の愛情を欲してるに違いない。
「何かあれば相談に乗るよ」
「それ、幼なじみとして? 担任として? 男として? 恋人として?」
「た、担任に決まってるだろう」
昨日までとは違う俺達の関係。
本当は幼なじみとして、アリッサムの傍にいてやりたかったが、そうも言っていられない。
「フランスパンもらって行くな。アリッサム、明日学校で」
「はい。ジョンソン先生、おやすみなさい」
アリッサムはわざとらしく、俺をジョンソン先生と呼んだ。俺はこれで教師と生徒に戻れたと信じていた。
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