28
午後六時過ぎ、アリッサムはドレスの上に白いエプロンを着用し、キッチンで料理を作り始めた。
「メイドはいないのか?」
「今日も人払いしているの。よほど年上の彼女を見られたくなかったみたいね。見られて困る相手と付き合うからだよ」
ジンジャーの恋人はまさか、人妻?
アリッサムはよほど気に召さないのか、それとも兄の恋人に嫉妬しているのか、超不機嫌だった。
「アリッサム、俺ならいいよ。別宅に帰って食べるから」
「これはお兄様の恋人の夕食だよ」
「わざわざあの女性に?」
「体調が悪い時こそ、食べて体力をつけないとね。この屋敷で死なれては困るだろう」
さっき会話を交わしたんだ。
死にはしないだろう。
「じゃあ、ついでに俺も……」
「アスターの夕食は知らない。お腹が空いたならフランスパンでも囓ってれば」
アリッサムはキッチンカウンターの上にフランスパンをトンと置いた。今朝は朝食を作ってくれたのに冷たいな。
ついでに夕食を作ってくれてもいいだろう。
「珈琲は自分でいれてね」
「はいはい」
俺はフランスパンを掴み切り分ける。
冷蔵庫からレタスやチーズやハムを拝借し、フランスパンに挟む。
キッチンからは美味そうな匂いがフワフワと漂っている。
アリッサムは鍋に牛乳を加えじゃがいもが柔らかくなるまで煮込み、塩コショウで味を整え、ゆでたパスタを加えた。
フライパンであらかじめ焼いていた生鮭の切り身を加え器に盛り付け、パセリをパラパラと振る。
その手際のよさと、鮏とじゃがいものクリームパスタの出来栄えに、思わず喉をゴクンと鳴らした。
その時、玄関のドアがガチャンと大きな音を鳴らし、ドタバタと靴音がした。その靴音は真っ直ぐジンジャーの部屋に向かい、ドアが開閉する音がした。
どうやら、ジンジャーが帰宅したようだ。
今日はやけに早い帰宅だな。
リビングには目もくれず、自室に直行するとは。よほど彼女が気になったのか?
しかし、ジンジャーが熟女好きとは意外だった。
数分後、リビングのドアが開いた。
廊下に彼女の姿が見え、俺達に一礼した。
「アスター、お前どうしたんだよ?」
「ジンジャーと話がしたくてな」
「俺と? 俺は取り込み中だ。これから彼女を送っていかなければならない」
「いきなり女性を家に連れ込んで、アリッサムを俺に押し付けただけではなく、アリッサムのことで俺に重大な噓をついていただろう。どういう魂胆だよ!」
「アリッサムのことで重大な嘘? ああアレか? 男どもが変な気を起こしてアリッサムを襲いかねないからな。可愛いアリッサムを野獣の餌食にしたくないためだ。文句あるか?」
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