27
「……バ、バカ。あれはアリッサムが……。いや、アレは挨拶だよ、挨拶」
玄関で揉めていると、ジンジャーの部屋のドアが開いた。見ず知らずの女性が、顔を覗かせ頭を下げた。見る限り年齢は俺より年上だが、知的で美しくどこか見覚えがあった。
「すみません。アダムスミスさんが帰宅されたのかと……。私はアダムスミスさんと交際しているアイリス・モーリーです。今朝発熱し熱が下がらず一晩お世話になりました。アダムスミスさんがこの屋敷で休んでいるようにと仰有ってくれて、お言葉に甘えてしまいました。あなたはアダムスミスさんのご家族ですよね。今朝は私のために朝食を作って下さりありがとうございました。あの……もしかして、あなたは、アダムスミスさんの親友の……」
「俺はアスター・ジョンソンです。ジンジャーはまだ仕事ですか。玄関先で騒いで申し訳ありません。ゆっくり休んで下さい。失礼します」
玄関を出ようとしたら、アリッサムがスーツの袖を掴んだ。その目は『知らない女性と一緒にいるのは嫌だ』と言わんばかりだ。
確かに、ジンジャーの恋人と夜まで一緒に過ごすのは気まずいだろう。メイドや使用人の姿もなく、人払いしているようにも見受けられた。
だが、俺は昨日までの俺じゃない。
アリッサムが男の娘だとわかったからには一歩たりとも別宅に入れるわけにはいかない。
俺は腕を引き抜こうとするが、アリッサムはガッチリ掴んだまま離してはくれない。まるで粘着テープだ。
「……わかったよ。俺もジンジャーと話がある。ジンジャーが帰宅するまで、この屋敷で待てばいいんだろう」
アリッサムはホッとしたように表情を緩め、俺を残して二階の自分の部屋に向った。俺はモーリーさんに「どうぞ休んでいて下さい」と頭を下げ、リビングに入った。
本宅は何度も訪ねたことがある。
勝手知ったるなんとやらだ。
俺はソファーに座りラジオをつける。暫くすると、赤いドレスを身に纏った女性が目の前に現れた。一瞬、誰かわからず目を見開く。
「ア、ア、アリッサム……!?」
アリッサムが私服で赤いドレスを身につけているなんて、初めてドレス姿を目にした俺はドギマギしている。
昨日までと同じ容姿なのに、ドレスを着用していると女性に見えるから不思議だ。
「制服より綺麗でしょう? アスター見とれてる」
そんな問題か?
アリッサムの心は完全に女性になっているのか?
「バ、バカ。変なこと言うな。くれぐれも言っておくが、俺達は教師と生徒なんだからな」
「わかってるよ。アスターがお兄様の親友で幼なじみだってことを、学校で言わなければいいんだよね。別宅に住んでいることも秘密なんだよね。二人だけの秘密って、禁断なイメージでなんかワクワクしない?」
俺はどうやら幼なじみの美少年に、獲物として狙われているようだ。
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