アスターside

25

 男子が女装で、女子が男装。衝撃的な校風に、そのあと生徒の自己紹介を再開したが、全く頭には入らず、いつの間にか自己紹介は終わっていた。


 その後、俺は失態続きで、配らなければいけないプリントを床にぶちまけたり、生徒の前でテンパり続け、アリッサムの見ている前で教師の威厳丸つぶれだった。


 初日のホームルームを終え、意気消沈したまま職員室に戻る。隣のデスクのブラウン先生が、俺に視線を向けた。


「ジョンソン先生、どうかされましたか? ガックリ項垂れてまるで亡霊でも目撃したみたいですよ。よほど緊張されたみたいですね。うちの学校はスーザン王国でも由緒あるパブリックスクールです。偏差値も高く生徒も優秀、そんなに緊張されなくても大丈夫ですよ」


「……いえ、前の学校は男子校だったので、女子がいるだけで緊張します」


 正確に言えば、アリッサムがいるから緊張したんだよ。ていうか、アリッサムが女装って青天の霹靂だ。


「女子に緊張するだなんて、発言には気をつけて下さい。ジョンソン先生は若くてハンサムだから、女子生徒もキャーキャー騒ぐとおもいますが、教師が舞い上がってはいけません。このご時世、女子生徒と誤解されるような言動があれば、すぐに保護者会で問題視され教師を続けることが出来なくなります。教員免許を失いかねません」


 この俺が女子生徒にキャーキャー騒がれるとは微塵も思ってないし、女子生徒が俺のことを羨望の眼差しで見つめているとも思えない。


 俺はどこにでもいる地味な数学教師だ。

 動物に喩えたら草むらに隠れている草食動物だよ。


「……はい。重々わかっています。そのような意味で緊張していたわけではありません。以後発言には気をつけます」


「ジョンソン先生の歓迎会は金曜日に行う予定なので、スケジュールを空けておいて下さいね。場所や時間は後日回覧しますので」


「はい。宜しくお願いします」


 ジンジャーは高熱を出して本宅で寝込んでいるはずだ。先ずは帰宅したら、真っ直ぐ本宅に向かいジンジャーに問いただす。


 ジンジャーは女装しているアリッサムのことを知っているのか。アリッサムの女装癖を知っていながら、何故昨夜アリッサムを別宅によこしたのか。


 滅多に怒らない俺だが、今回ばかりは許さないからな。

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