23

 ―セントマリアンジェ校―


 学校に着くと、新入生の入学式も着任式も終わっていて、ボクはコソッと校舎に入りクラスに向かう。


 ドアの隙間から教室の中を覗き見る。みんな私語もせずお行儀よく座っている。


 アスターは教壇で生徒たちに簡単な挨拶を済ませ、窓際の席から順番に一人ずつ自己紹介をさせている。ボクの席はもちろん空席だ。


 半分くらいまで自己紹介が終わった頃、ボクは意を決してガラガラと教室のドアを開いた。


「ジョンソン先生、遅くなってすみません」


 遅刻したくせに元気よく声を出すと、みんなの視線が一斉にこちらに向き、『うおー』と歓声が上がった。今まで兄の命令でずっと男子の制服を着用していたため、ボクがスカートを穿いていることにクラスメイトも驚きを隠せない。


 アスターは目を見開き、ワナワナと驚愕している。どうやらボクが『女装』して登校したと勘違いしているようだ。


「ア、ア、アダムスミス……。その恰好どうしたんだ!?」


 アスターはいまにも腰を抜かすほど仰天している。ボクの胸元には赤いネクタイが揺れ、スラリと伸びた自慢の美脚がスカートから覗いていたからに違いない。


 アスター、まだ気付かないの?


 ボクは動揺しているアスターをスルーして、平然と自分の机に向かい自己紹介をした。


「アリッサム・アダムスミスです。両親は海外旅行中で、今は兄と二人暮らしです。色々不自由だけど、自由を満喫しています。宜しくね」


「アダムスミス……。ちょ、ちょっと廊下に出ろ!」


「えっ? 遅刻には正当な理由があるんです。ジョンソン先生、初日に説教ですか?」


「いいから、廊下に出ろ!」


 ざわつく教室。

 混乱しているアスター。


 昨夜気付かないアスターがいけないんだよ。


 ボクはツンと唇を尖らせた。


 廊下に出ると、アスターは周囲を見渡し小声でボクに問いかけた。


「アリッサム……。いや、アダムスミス。なんで女装してるんだよ。心の問題があるなら、それもいいだろう。だが、校長の許可はとっているのか? みんなも驚いていたようだが、一年の時から女装してるのか? どうして、こんな大事なことを昨日教えてくれなかったんだよ」


 大真面目に話すアスターを、ボクはジッと見つめた。


「ジョンソン先生、何のことですか? 遅刻したことはすみませんでした。実はこの学校、男子が女装し、女子が男装するのは珍しくはないですよ。スカートを穿く男子もいます。自由な校風ですから」


「……じ、自由な校風って!? いや、まて、自由過ぎるだろ」


 女子の制服を着たボクを見て、いまだに男だと思っているアスター。呆れてものも言えない。


「成績よりも性別を重視するのはナンセンスです。もう教室に入っていいですか?」


「……男子が女装し、女子が男装。まさかあの坊主頭が女子? それはナイナイ」


 本当にそう思い込むなんて、アスターを騙すのは意図も簡単だ。

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