アリッサムside

20

 ―新入生入学式前夜―


 ボクは兄に家を追い出された。しかも午後十時過ぎだ。兄が連れて帰ってきた女性は、どう見ても四十歳過ぎていた。地味なドレスだったが、身につけていた宝石は豪華なものだった。


 まさか人妻っていことはないよね。

 金髪のロングヘアに太い眉。兄にしては、趣味が悪い。


 こんな女性と本気で付き合ってるのか?

 両親が知ったら、きっと泣くよ。だって兄はまだ二十六歳だから。


 ボクは枕を胸に抱きパジャマ姿のまま、本宅の庭をトボトボと歩き別宅に行く。


 一週間以上も前から、ボクはアスターに無視されいて別宅の中に入れて貰えない。


 よほどあのキスが気に触ったようだ。


 兄に追い出され腹が立ったものの、少しだけラッキーって思えた。だって別宅に泊まれるチャンスだから。


 ボクはドキドキしながら、玄関のチャイムを鳴らす。いくらチャイムを鳴らしても、アスターは出て来ない。


 寝てるのかな?

 まさか? まだ午後十時過ぎだよ。


 パジャマ姿のボク。誰かに見られたら、恥ずかしい。両親に知れたら、はしたないと説教されてしまう。


 アスター、早く開けてよ。


 ドアを連打するものの、アスターの気配は感じられない。


 まだ無視するの?

 居るのはわかってるんだよ。


 思わずドンドンとドアを叩く。


 やっと開いたドア。

 鶏の鶏冠みたいに髪は乱れパジャマ姿のアスター。どうやら風呂上りにそのままベッドに潜り込んだようだ。


 淡いブルーのガウン。

 私服よりもセクシーだな。


 ボクは鼓動のドキドキを悟られたくなくて、照れ隠しのために『遅いよ』なんて、文句を言いながらズカズカと室内に上がり込んだ。


 当然、アスターは困惑している。

 そんなに露骨に、『迷惑だ』みたいな顔をしないで。


 兄に電話をしたアスターは、やっと状況を理解したようだ。ボクはラッキーなことに、別宅に泊まることになった。


 速馬みたいに高鳴る鼓動。


 アスターの部屋で一晩過ごせる……みたいな。


 それなのに、何故かボクは何年も使用されていない埃の舞う客室だ。

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