19

 アリッサムはそんな俺をじっと見つめている。からかわれている俺は完全に負けだ。


 朝食のあと、屋敷からアリッサムを追い出し学校へ向かった。朝の爽やかな風が火照った顔を冷ます。


 凛と背筋を伸ばし、アリッサムとの一夜を記憶から抹消した。


 ――パブリックスクール、セントマリアンジェ校――


 新入生の入学式も着任式も無事に終え、一番の難関、担任のクラスへといざ出陣だ。


 教室の中には男女合わせてニ十八人。上流階級の令息、令嬢らしく、みんなキチンと制服を着こなし、私語もせずお行儀よく座っている。


 意識しているわけではないが、俺は朝まで一緒だったアリッサムを目で探している。


 席順は頭文字のアルファベット順。窓際の席に視線を向けると、そこに座っていたのは坊主頭の男子生徒。


 あれ?

 クラス名簿の一番上に確か名前があったはず……? 俺の勘違いだったかな?


 視線をスライドさせ、生徒の顔を一人ずつ確認するが、アリッサムはいなかった。


 あいつ……新学期にまさかの遅刻か……?


 ジンジャーと喧嘩でもしたのかな?


 俺は教壇で生徒たちに簡単な挨拶を済ませ、頭文字のアルファベット順に自己紹介をさせた。一日も早く生徒の顔と名前を覚えたかったからだ。


 窓際の席から順番に一人ずつ自己紹介をする。半分くらいまで自己紹介が終わった頃、ガラガラと教室のドアが開いた。


「ジョンソン先生、遅くなってすみません」


 明るい声に思わず視線を向けると……

 そこにいたのは……。


「ア、ア、アダムスミス……。その恰好どうしたんだ!?」


 俺は腰を抜かすほど仰天している。

 何故なら、アリッサムの胸元には赤いネクタイが揺れ、スラリと伸びた美脚がスカートから伸びていたからだ。


 男のアリッサムが女子の制服を着用しているなんて!? ま、まさか、学校で女装してるのか!?


 体は男で心は女!? 


 この学校では女装が認められているのか?


 アリッサムはアダムスミス公爵家の令息。アダムスミス公爵は領主様。それくらいの力はある。


 俺は長年アリッサムを見てきたが、そんなことにも気づかなかったなんて……。


 アリッサムは動揺している俺の気持ちを知ってか知らずか、平然と自分の机に向かい自己紹介をした。


「アリッサム・アダムスミスです。両親は海外旅行中で、今は兄と二人暮らしです。色々不自由だけど、自由を満喫しています。宜しくね」


『自由を満喫しています』って、その恰好、満喫し過ぎだろ。


「アダムスミス……。ちょ、ちょっと廊下に出ろ!」


「えっ? 遅刻には正当な理由があるんです。ジョンソン先生、初日に説教ですか?」


「いいから、廊下に出ろ!」


 ざわつく教室。

 アリッサムのやつめ、わざと女装して俺をからかっているのか。


 混乱している俺を尻目に、アリッサムはツンと唇を尖らせた。

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