微熱 3

16

 ◇◇


『んんーー……』


 寝苦しい……。


 腕が異常に重い……。

 痺れたように痛くて動けない。


 これは、金縛り……!?

 きっとそうだ……。


 それとも別宅には、公爵家の先祖の亡霊が……!?


 だ、誰か……助けてくれ……。

 俺はアリッサムには、何もしていない。


 先祖に祟られることは、何もしてないんだ……。


『ぷはあっっ……』


 重い瞼を開くと、目の前には黒い人影。

 その人影は海のように青い瞳をしていた。


 黒い人影は、寝ている俺に馬乗りになっている。金縛りの亡霊が、俺の目の前で口角を引き上げ笑みを浮かべた。


 暗闇にぼんやり浮かぶ顔……。


 これは……悪夢……!?


 まさしく、コレは悪夢だ。


『ひゃ、ひゃ、ひゃあーー……』


 いい大人が、ちゃんと喋れないなんて情けない。


『アスター、起きたの? なんだ、残念』


『……残念だと!? ア、ア、ア、アリッサムっ! 何をしてるんだよ。寝室には一歩も入るなと言ったはずだ』


『だって一人は寂しいし、客室のベッドの寝心地が最悪なんだ』


 俺の隣にゴロンと寝転がり、右腕の上に平然と頭を乗っけているアリッサムは、すでに仔犬から野生の狼と化している。


 スースーする体。

 毛布の中にいるのに、やけに開放的で肌寒い。


 俺は思わずソッと毛布をめくる。


『うわ、わ、わーー!!』


 俺は一糸纏わぬ全裸だ。

 俺のパジャマはどこにいった……!?


 ベッドの下に無造作に放り投げてある俺のパジャマ。アリッサムが俺の目の前で、自分のパジャマを脱ぎ捨てた。


『な、な、何を考えてんだよっ!』


『だってさ、同じ部屋で寝ているんだよ。ボク、我慢できないよ』


『うわ、わ、わ、何言ってんだよ。俺達は男同士なんだよ』


『それマジで言ってるの? アスター、もしかして兄の話を信じてるの?』


『……はっ? 意味がわからない?』


『アスター……アスター……。大事な話があるんだ』


 アリッサムの唇が近づく。


 や、や、やめろ!


 やめろ! やめろ! やめろーー!!


 俺の禁断の扉をこじ開けるな!!


 ◇◇


「アスター? アスター? 凄く魘されてるけど、大丈夫? 悪い夢でも見たの?」


「……うわあっ!? あ? ん?」


 俺はアリッサムに揺り起こされ、飛び起きた。


 目玉を左右に動かし自分の状況を確認したが、どうやら俺も、目の前に立っているアリッサムも、パジャマは着用しているようだ。


「……裸じゃない」


 悪夢だ……。

 まさしく、悪夢だ……。


 でも、淫行教師にならなくてよかった……。

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