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「アスターと一夜を過ごしたなんて、教師と生徒の秘密の関係って、ドキドキするね」


「……っ、一夜を過ごしたとか、紛らわしい表現をするんじゃない。俺はアリッサムの家庭環境を踏まえて、困っている生徒に教師として部屋を提供したまでだ」


「教師として……か。お兄様にはそういうことにしといてあげる」


「ジンジャーに二度とこんなことはするなと伝えてくれ。いいな」


「はいはい。泊まった御礼に朝食作ってあるから」


「……朝食? アダムスミス公爵家の令息であるアリッサムが? 朝飯を作ったのか? 料理ができるなんて、驚いたな」


 アリッサムはニンマリと口角を引き上げて笑った。


 俺は洗面所で顔を洗い髭を剃る。

 クローゼットから黒いスーツを取り出し、白いカッターシャツに白のネクタイを絞める。


 今日は新入生の入学式、俺の着任式でもある。生徒とのコミュニケーションは、第一印象で決まる。


 スーツの上着を掴み寝室から出た。キッチンからコーヒーのいい香りと、スクランブルエッグの甘い匂いがした。


 アリッサムは俺に気付くと、フライパン片手にニカッと笑った。


 アリッサムの瞳は、朝からキラキラしてる。


 生徒を一晩泊めてしまった罪悪感から、俺はアリッサムと視線を合わせることが出来ない。


「アスター、そんな恰好したら教師みたいだね。座れば?」


「教師みたいじゃなくて、俺は教師なんだ。俺は朝食は食べない主義なんだよ」


 どうして、平然としていられるんだ?

 俺にキスをしておいて、信じられない。


「教師のくせに、朝食を食べないの? 朝食を食べないと頭が働かないよ。よくそれで教師が務まるな」


「悪かったな」


「朝は目玉焼き派かなと思ったけど、スクランブルエッグにしたから」


 アリッサムはスクランブルエッグを皿に盛りつけた。皿にはレタスやトマトの生野菜が添えられている。


 どうやらオムレツを作るつもりだったらしいが、失敗したようだ。


「玩具の刀を振り回していたアリッサムが料理をするなんて、成長したな」


「朝食も夕食も作るよ。自分のランチだって作ってるし。お兄様は何もしないからね」


「そうだよな。ジンジャーは料理するタイプじゃないし。そもそもシェフやメイドが全て用意してくれるだろう。家事を手伝うなんて、アリッサムを見直したよ」


 アリッサムはテーブルの上に料理を並べ、顔をクシャッと緩ませて嬉しそうに笑った。

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