15

「アリッサム、おやすみ」


「えっ? もう寝るの? まだ十時過ぎだよ。ねぇ、一緒にバルコニーで星を見よう。アスター、ここにくれば?」


 アリッサムは窓を開け、パジャマ姿のままバルコニーに出て俺を見つめた。


 レースのカーテンが風に煽られ、ゆらゆらと揺れている。レースのカーテンとアリッサムの姿が重なって見え、まるでレースのウェディングベールを頭に纏っているようだ。


 俺は重症だ。

 アリッサムが花嫁に見えるなんて、どうかしている。


「いや、遠慮しとく。明日は初出勤だから早く寝たい」


 俺……

 何を妄想してるんだよ。


 アリッサムは男なんだよ。

 レースのカーテンがウェディングベールに見えたなんて、口が裂けても言えない。


 自分の淫らな妄想を打ち消すために、俺は慌てて寝室に戻った。


 キングサイズのベッドに潜り込み、気持ちを落ち着かせるために、ラジオを聴きながら文学書を開いた。


 アリッサムを意識してか、ちっとも文学書の内容が頭に入らない。


「やめた。もう寝よう」


 文学書を棚に戻し電気を消して毛布を頭まで被った。寝ようとして瞼を閉じたものの、意識は客室に飛びいっこうに眠れない。


 俺は……。

 俺は二十六歳の大人だよ。


 アリッサムの担任教師なんだから。


 カチカチと鳴る時計の秒針。深夜零時を過ぎても、眠れなくてトイレに行きたくなる。


 寝室を出て長い廊下を歩くと、客室から薄明かりが漏れていた。


 そっとドアを開け部屋に入ると、アリッサムは毛布にくるまりスヤスヤと寝息を立てていた。


 なんだよ、寝てるのか。

 可愛い寝顔……。透き通るような白い肌。まるで女子みたいだ。


 あのワンパク坊主が、こんな美形男子になるなんて。わからないものだ。


 点けっぱなしの電気を消して客室を出た俺は、アリッサムが寝ていたことに安堵し寝室に戻った。

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