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 ジンジャーのやつ、ありえない。

 俺を犯罪者に貶め、教職を奪う気か!?


 大人の男女なんだから、自宅に連れ込まずホテルに行けばいいだろう。公爵家の令息なんだ、金なら腐るほどあるだろう。


 受話器片手に呆然としている俺を、アリッサムが上目遣いで見上げた。ヤバい、アリッサムの眼差しが女子に見える。


 電話口で女性の悩ましい声を聞き、俺まで変な気分だよ。


「だから、今部屋に帰るのは危険なんだよ。未成年者のボクに、ジョンソン先生はあそこに戻れというの?」


 こんな時に、わざとらしく姓で呼ぶなんて。


 俺の腰に手を回しギュッと抱き着いたアリッサムを、俺は必死で振り払う。


「……っ、傍に寄るな。勝手に抱き着くな。本宅の部屋数はたくさんあるだろう。ジンジャーの寝室から離れた部屋で過ごせばいい。早く帰りなさい」


「健全な青少年をあの場所に追い返すなんて、それって教育上どうなのかな? ボクの寝室はお兄様の寝室の隣なんだ。教師としてその判断は正しいと思ってるの?」


「教師としては……推奨できない」


 俺の弱点を利用するアリッサム。

 今すぐ帰るのはNGだけど、ここに泊まるのはもっとNGだ。


 縋るような眼差しで、俺を見つめるアリッサム。


 明日は新入生の入学式と俺の着任式。

 こんなことで、大事な睡眠を削るわけにはいかない。


「仕方ない。アリッサムは客室だよ。俺の寝室には一歩も入るな。いいな」


「一歩も入るなって冷たいな。明日新入生の入学式にスペシャリストは参列するんだよ。アスターはボクとキスしたことが学校にバレたら困るんだよね? 学校でバラそうかな」


 それはアリッサムが無理矢理したんだろう。

 それって俺を脅迫してるのか?


「そんな脅しには乗らないよ」


「ボクはアスターと一緒がいいのにな。久しぶりにアスターに腕枕して欲しいし、積もる話もある」


「バーカ、枕持参で来てるんだ。腕枕は不要だろ。毛布を渡すから、客室で待ってろ」


「はいはい。一晩お世話になります」


 ソファーの上に正座し、アリッサムは頭を下げた。


 わざとらしい態度。

 わざとらしい演技。

 けど、微妙に可愛い。


 十八歳は未成年だけど、れっきとした男だ。俺にキスをした前科がある。可愛い振りしてるけど油断禁物。こいつは確信犯だ。


 ジンジャーのやつ、俺の部屋に盛りのついたオス犬を一匹放り込むなんて。まじで勘弁だよ。


 ソファーに座り行儀よく待っているアリッサムは、尻尾をフリフリ飼い主の『待て』と言う命令が解けるのを待つ仔犬みたい。


 一緒に客室に行き、ベッドのシーツを取り替え、毛布を渡す。


「いいな、俺の寝室は入室禁止だからな」


「はーい、ジョンソン先生」


 幼稚園児みたいに、ふざけて右手を上げるアリッサム。苛立っていたのに、幼い頃を思い出しつい口元が緩んだ。

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