13

「お兄様が女性を連れて帰ってきたんだ。しかも、お兄様よりかなり年上のおばさんだよ」


「おばさんって、誰だよ」


「そんなの知らないよ」


「いくらジンジャーでも、相手がおばさんだなんて」


 アリッサムは苛つきながらソファーに寝そべり、枕を抱きかかえている。体は大人びているが、精神的にはまだ少年だな。


「でさ、そのおばさんを今夜屋敷に泊めるんだって。だから『別宅に行け』って、お兄様に屋敷を追い出された」


 はぁー!? 嘘だろ!?


「それで、枕持参でのこのこ別宅に来たってわけ?」


「うん、でもボクは微妙に嬉しいかも。アスターと同じベッドで一緒に寝れるから」


 さっきまで怒っていたアリッサムが、ニンマリと口角を引き上げ笑みを浮かべた。


「ていうか、こっちの方がマズイだろ。だって明日からアリッサムは俺の生徒なんだよ。たとえ同性でも生徒と一晩一緒に過ごすなんて、ありえないから」


「だよね、ジョンソン先生」


 アリッサムは縋りつくような目で俺を見つめた。まるで捨てられた仔犬みたいだ。


「断固断るからな!」


 俺は憤慨し、ジンジャーに電話する。


 ――Ru……Ru……Ru……。


 イライラしながら呼び出し音を数える。十コール目にやっとジンジャーが電話に出た。


『なんだよ、アスターか。今、取り込み中なんだよ。状況はアリッサムから聞いてわかってるだろう』


 何が、取り込み中だ。

 弟を追い出して女性と逢瀬を楽しむなんて、そんなのわかってたまるか。


「ジンジャー、困るんだよ。ここはホテルじゃないんだ。俺は明日からアリッサムの担任なんだよ。生徒を泊めるわけにはいかないんだよ」


『そこはアダムスミス公爵家の別宅だ。別宅にアリッサムが泊まっても不思議はない。アスターと一緒だったことは黙ってたらわからないだろう。んっ……アイリスもうちょっと待って。待てない? だよなぁ……俺も待てない。チュッチュッ』


 受話器から甘い吐息と水音が響く。


 まさか……電話の受話器を片手にキスをしているのか!?


「ジンジャー、真面目に聞けよ。そんな実況中継はいらないんだよ。今すぐやめてアリッサムを本宅に入れろ!」


『お前、それは無理だろう。男は急に止まれない生き物なんだよ。アリッサムはアスターにまかせたからな。俺のに変なことすんなよ。淫行で逮捕されるぞ』


「は? へ、変なこと!? ば、ばか! お前の弟に、す、するわけないだろ!」


 ――ツーツーツー……。


「ジ……ジンジャー!」


 さ、最悪だ……。

 俺は同性の未成年者に淫行した罪で逮捕される!?

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