12

 もう、アリッサムとは挨拶のキスもしない!

 部屋の中にも入れない!

 そう意を決して別宅に向かう。


 もう担任と生徒。

 幼なじみでも、家主の令息でもない。


 私情を挟まず生徒を公平に扱うため、ケジメつけないとな。


 その時の俺は、これから最悪なことが待ち受けているなんて、予想だにしなかった。


 ◇


 その日の夜、いつものようにドアを叩く音がした。

 俺はドア越しにアリッサムを確認し、ドアチェーンを掛けシャットアウトする。


「アスター、なんで?」


「アリッサム、寛ぐなら本宅で寛げ。別宅にはもう来るな」


「やだよ。本宅じゃ寛げないんだよ」


「ダメだ。アリッサムは俺の生徒なんだから。個人的な交流は、他の保護者から依怙贔屓しているみたいに捉えられるだろ」


「わけわかんない。何が依怙贔屓だ。ボクはアダムスミス公爵の子供なんだ。この屋敷は父のものなんだから、ボクが自由に出入りして当たり前だろう」


 逆切れのアリッサムは、口を尖らせふて腐れている。

 ドアチェーンに阻まれ、さすがに諦めたいのかプイッと本宅に戻った。


 上手くアリッサムを追い払い、俺はホッと胸を撫で下ろす。


 それから連日のように訪れるアリッサムを玄関先で拒絶し、俺は上手くアリッサムと距離をとることに成功した。


 ◇


 新入生の入学式前夜。

 午後十一時過ぎ、ベッドに潜り込んでいると玄関を激しく叩く音がした。


 ――ドンドンドンドンドンドン……。


 誰だ? こんな夜中に……?


 俺はすでにパジャマ姿。夜中の訪問者を迎え入れるわけにはいかない。


 ――ドンドンドンドンドンドン……。


 玄関を激しく叩く音に一瞬ビクつく。

 胸騒ぎがして仕方なくベッドから這い出し、窓から外を覗き見る。


 視界に映ったのは、パジャマ姿のアリッサムだった。


 ジンジャーに何かあったのかな?

 まさか急病? 怪我? 事件? 事故!?

 慌てて玄関のドアを開けた。


 アリッサムは俺の体を押し退けて、ズカズカと室内に入った。


「アスター、遅いよ。早く開けてよ」


「どうした? ジンジャーに何かあったのか? 事故か? それとも急病で倒れたとか!? すぐに病院に運ぼう!」


「違うよ。ジンジャーはボクが邪魔なだけだよ」


「は? アリッサムが邪魔?」

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