初めてグラマースクールの門をくぐった俺は、生徒達にからかわれ、何度も教壇で赤っ恥を掻いた。そこで俺は心身共に鍛えられたんだ。


 アリッサムなんて、その時の生徒に比べると可愛いものだ。そう自分自身に言い聞かせるものの、落ち着くどころか益々テンパっている。


「……ていうか、アリッサム、もう食事を終えたなら帰っていいよ。今日はありがとう」


 動揺している俺は、アリッサムから視線を逸らして食事を続けた。


「なーんだ。つまんない。今夜、ボクが腕枕してあげようと思ってたのに。昔、アスターがボクを抱き寄せて腕枕してくれたみたいに」


 アリッサムが俺にウィンクした。俺は無言でアリッサムを睨む。その言い方、まるで俺が犯罪者みたいだろ。


「アスターそんな恐い顔しないで。美男子が台無しだよ。アスター、ディナーご馳走様でした。おやすみなさい」


 アリッサムはナプキンで上品に口元を押さえ、椅子から立ち上がると同時に、俺の頬にチュッてキスをした。


「……っあ、お、おま、おま、お前……」


 アリッサムを両手で押しのけると、目の前には澄んだ青い瞳。不覚にも俺の鼓動は大きく飛び跳ねた。


「アスター、何かわからないことがあったらいつでも電話で呼んで。ボクは本宅にいるからね」


 アリッサムは無邪気な笑顔を俺に向けると、何事もなかったかのように、掌をヒラヒラさせて屋敷を出て行った。


 さすが、ジンジャーの弟だよ。

 ワンパク坊主だと思っていたが、いつの間にか色気付いている。


 俺は、俺は、確かに赤ちゃんのアリッサムに何度もチューをした。それは兄が幼い弟にチューをしたり、頬擦りをしたり、ハグをしたりするのと同じ感情に過ぎない。


 だが、アリッサムのアレは明らかに異なる。挨拶のスキンシップとは、明らかに違っていた。


 あいつは十八歳なのに、禁断の愛に目覚めてしまったのか……!?


 俺はブルブルと首を左右に振る。

 いくら、アリッサムのファーストキスを奪ったとはいえ、少年のアリッサムに責任を取れないからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る