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「今日は再会初日だし、ご褒美は挨拶程度のキスでいいよ」
さっきまで仔犬みたいに可愛い表情を見せていたアリッサムが、一瞬オトナの表情をした。
いまだに状況がのみ込めない俺は、男のアリッサムに唇を奪われて呆然としている。
「ディナー楽しみだね」
アリッサムは右手の人差し指で俺の頬をツンと押した。俺はもはやディナーどころじゃない。
目の前の美少年に唇を奪われ、冷静な思考回路を破壊されてしまったのだから。
俺の概念が根本から覆されてしまった。
アリッサムはもしかしたら、男が好きなのか? この俺に、恋をしているというのか?
ま、まてまて。
俺は男で、アリッサムも男だ。
「あ、あのさ、アリッサム……。お前……」
――コンコン……コンコン……。
「アスター、レストランのディナーが届いたよ」
ノックに遮断され、俺は言葉を喉元に押し込んだ。財布を持ち玄関ドアを開ける。ドアの前には黒いエプロンを身につけたボーイが二人立っていた。
「本日はご利用ありがとうございます。キングレストランです。アダムスミス公爵様、ご注文のディナーをお持ちしました。テーブルにセッティングしても宜しいですか?」
「はい。あの……俺はこの家を借りてる者で、アダムスミス公爵ではありません。アスター・ジョンソンと申します。今後とも宜しくお願いします」
「さようでございましたか。ジョンソン様、こちらこそ、今後とも宜しくお願い申し上げます」
キングレストランのボーイは、室内に入り料理をテーブルに並べた。アリッサムはダイニングテーブルの椅子に座りその様子を見つめている。
テーブルには温かいコーンスープや前菜。焼きたてのパンや、仔羊のステーキ等が並んでいる。
アリッサムからしてみれば珍しくもない料理だが、よほど腹が減っていたのか、ボーイが帰るとすぐにナイフとフォークを掴んだ。
「いただきます。アスターも座れば?」
お腹を空かせた仔犬が、尻尾を振り餌に飛び付くみたいに、アリッサムはパクパクと仔羊のステーキを食べ始めた。
キスをした時の顔と今の顔は明らかに別人だ。
俺はコーンスープをスプーンで掬い口に運びながら、アリッサムの食欲に見入る。
「あのさ、アリッサム……」
「……ん? なに?」
アリッサムは仔羊のステーキを口に頬張っている。唇はステーキソースでテカテカと光っている。
俺はこの美少年に唇を奪われたのか?
それとも、アレは錯覚?
「あのさ? さっきキスしたよな? な、何でだよ? 俺達は男同士だ。俺はアリッサムの学校の教師だし……単刀直入に聞く。俺はその……同性愛は否定しないが、俺は同性愛者じゃない」
俺は冷静を装い、アリッサムに問いただす。本当は『ギャアギャア』喚きたいくらい、パニックに陥っている。
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