第7話
今度こそ夜だ。ただの闇ではなく、空には月も星も見える。俺は地面に寝転がっていたようで、体を起こすと家の建材がいたるところに無残に転がっておりカラカルやイエイヌ。かばんさんに博士と助手。それに、見知らぬフレンズたちの姿も見える。
全員、疲労
「すみません。迷惑かけました」
「ほんとよ……動物に戻るかと思ったわ。でも、あんたはキュルルじゃなくてアオイなんでしょ。だったら、あんたは悪くないわ。それより、あのとき助けてくれてありがとね」
どうやら俺とキュルルの会話はみんなに筒抜けだったらしく、その言葉をヒントにして女王化したキュルルを倒すことができたのだという。
「俺の体は、女王セルリアンが作った人間のコピーだ。そして、どちらかというとこの体はキュルルのものだった。それを、俺が横取りしたようなものだ。だから悪いのは俺なんだがな」
もう、俺の中にキュルルの気配はしない。彼は女王が作った人間のコピーでありオリジナルの子供は家族とともに家に帰り、天寿を全うしている。彼の帰るべき家はもうすでに無くなっているのだ。
そのことを知ったキュルルは、セルリアンの体を放棄した。知ったというか認めたのだろう。キュルルは、本当は記憶を失ってはいなかった。ただ、記憶にふたをして知らないふりをしていただけなんだ。
アニメのけものフレンズ2をみていた
「何でこいつ。記憶喪失のはずなのに、ここがおうちではないと自信満々に言えるんだ?」と。
答えは簡単。キュルルは元から記憶なんて失ってはいなかった。ただ、思い出すことを拒絶していただけだったんだ。4話以降、彼は自身の記憶について一切触れていない。
そもそも、自分はセルリアンのコピーだ。なんてあのセルリアンを見かけたら問答無用の世界でそのことを口にできるだろうか。倒されることはないにしろ、下手をしたらサーバルとカラカルはキュルルから離れサバンナに帰ることだってあり得る。
キュルルの幼い心で、それを受け止められる確率は極めて低いだろう。
「大丈夫!アオイちゃんはアオイちゃんだよ」
「え?」
「アオイちゃんはセルリアンが作った子かもしれないけど、アオイちゃんは私たちの友達。それでいいじゃない」
「これで拭くといいよ。ひどい
俺はかばんさんからハンカチを受け取り顔を拭くと声をあげて泣いた。きっとキュルルがまだほんのりと残っているんだろう。もとはと言えば、いい歳した大人だぞ俺は。
「まあ、これでも飲みなさい」
近くにアリツカゲラの経営するロッジがあるということでそこで休ませてもらうと、かばんさんがお茶を淹れてくれた。
「ありがとうございます」
「いえいえ」
キュルルは消えて、俺が生き残ったか。いや、おかしいだろ。本来消えるのは、俺であるべきだ。だって、そうだろう。イレギュラーは俺の方なんだぞ。
「それで、アオイ。これからどうするの?」
「そうだな。俺は死んだキュルルのためにも――」
「僕は死んでないよ!」
え?声のした方を見るとそこにいたのは、確かにあのキュルルだった。
「お前……女王化から解けて消滅したんじゃなかったのか!?」
「違うよ!黙ってたら面白そうだから隠れてろってカラカルが……」
「あはははは!もうダメ限界!」
実は、キュルルの方が先に目覚めていて俺を驚かそうと黙っていたらしい。で、カラカルがいたずら心を出してキュルルにいいタイミングで俺のところに現れるというドッキリをしかけたのだとか。
驚かしやがって。ちくしょう。
「今度、みんなの絵を描くときカラカルだけ省いてやる」
「酷!?それはちょっと、酷すぎない!!」
「あはは。冗談。そんなことしないって」
俺は大人だからね。そんな大人げないことはしないさ。鏡の前に立つと、俺とキュルルはどうやらそっくりの双子のようになっていた。違うのは髪の色ぐらいか。キュルルの髪は原作と同じ緑色で俺は黒。
原作との違いをあげるならキュルルの瞳孔が変色していないのと、眉毛も緑色になったということぐらいか。
「俺は、かばんさんさえよければ厄介になろうかなと思ってます。みんなに助けてもらったから。今度は、俺がみんなの役に立ちたいんです」
「ボクは、構わないよ。来て来て」
「ありがとうございます」
キュルルのおうちを見つけることができれば、元の世界に帰れるんじゃないかという
「僕は……どうしよう」
「あの!!私のところに来ませんか!!」
イエイヌが食い気味でそう言った。まだ未練があったのか。でもまあ、ようやく会えたヒトなんだからそりゃあそうかという気もする。
「え……。でも、アオイの記憶で見たんだ。僕はイエイヌさんにひどいことをしたって」
いや、確かにアニメの対応は褒められたものじゃなかったが、別にお前が痛めつけたわけじゃないだろ。
「女王化では確かに痛い目を見たけど、それはイエイヌに限ったことじゃないでしょ」
「キュルル。それは、別の可能性の話だ。もしも、サーバルとカラカルが出会わなかったらとかイエイヌがようやく会えたヒトに冷たくあしらわれたらとか。こことは違う外れた可能性の世界のことまで、お前が気に病む必要はないさ。大体、イエイヌ自身が一緒に暮らしたいと言っているのに何をためらう必要があるんだ?」
「――そう、だよね。うん。イエイヌさん、お世話になるよ」
「はい」
こうして、俺たちの身の振り方は決まったのだった。俺とかばんさん、博士と助手は例の研究所に戻ってセルリアンの素となるセルリウムの研究を続けており、サーバルとカラカルがたまに遊びに来るようになった。
「かばんちゃんはすごいんだよ」と時折サーバルはかばんさんを自分の嫁のように自慢することも増え独り身の俺には寂しさすら覚えるが、そんなときはカラカルがよく俺の肩をポンポンと叩くようになっていた。
アニメ版のカラカルは、常に喧嘩腰で面倒な性格の女という感じだったから変な感じもするが比較しても意味はないな。あれはあれ。この子はこの子だ。
「そういえば、キュルルって子。イエイヌとカフェをやってるらしいわよ」
「じゃあ。香茶だけじゃなくて、コーヒーの淹れ方も教えないとな」
ミナミメーリカ園ではコーヒーの栽培も可能らしく、最近は紅茶だけではなくコーヒーも淹れるようになってきたのだ。
「我々も、コーヒーは好きですよ。賢いので」
「島の長のたしなみなのです」
「あんたたちだって、砂糖とミルクたっぷり入れないと飲めないでしょ」
今日も、ジャパリパークは平和だ。俺はコーヒーを飲みながら、窓の外で踊るカタカケフウチョウとカンザシフウチョウを眺めていた。
キュルルに転生したので名前を変えてみた 珈琲月 @bluemountainga_1bansuki
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