ザイアンスの法則
みなづきあまね
ザイアンスの法則
(・・・夢。仕事のストレス?なんでよりによって有り得ない人に抱きしめられる夢なんて。)
心の中で悪態をつきながら起きた。厳密に言えば、つまずいた瞬間抱きとめられる夢。話しかけられた状況が絶妙で、リアルな夢だった。
人間って案外単純。今までいるかどうかすら気にしなかった相手なのに、一挙一動が気になりだす。好きになるような男性ではないのに。むしろ悪い印象しか持ち合わせていなかった。
でも、神様は私を試し始めた。
彼の夢を思い出しながらエレベーターに乗った瞬間、彼が同乗してきて動揺した。あまりにもタイミングが合いすぎて、顔も見られない!
翌朝、昨日偶然会ったことを考えていたら、角で仲の良い女性同僚に声を掛けられた。二人でタイムカードを押した時、ふいに振り返ってみると、彼がいた。挨拶するのがやっと!
急ぎの用事で廊下を走っていたら、出勤した彼と角でぶつかりそうに。その距離15センチ。どこに焦点を合わせればいいか分からないし、恥ずかしくて硬直。
・・・なんて朝のハプニングを思い出していたら、階段ですれ違った。特に何もないけど。
数日後、資料の追加コピーのために会議室を退出し、ドアを閉めた。廊下の奥に階段へ向かう彼が。
残業が長引き、最後の人です報告を警備室にしに行き、警備員さんに挨拶をしてガラス戸を閉めた時、タイムカードを押しに来た彼に鉢合わせ。私より先に退出したのにまだいたの?なんとか笑顔で挨拶。
翌週、出張からヘロヘロになりつつ、あまりに多い荷物を置きに夜、仕事場へ。入口の前でばったり会い、言葉を交わす。そっけない他人行儀な返事だけしかくれない。
違う部署の後輩が遊びに来て、廊下で立ち話をしていたら、彼が目の前を通った。恐ろしくて顔も見られない。
・・・何なの?前より意識しているからなのか、会う頻度がかなり増した気がする。それでも要件はないから直接何かしらの話題を話すことはほぼないし、相変わらずの仏頂面。
慣れ親しんだ同僚とは、楽しそうに笑って話したり、自分の予定を自ら話題にあげたり、人に話しかけることもある。なのに私が話しかけても基本冷淡で、世間話なんて出来る空気はなし。
どれだけ嫌われてるのかしら。世には、「好き避け」という、片思い女子に最後の希望を残酷にも与え続けるマジックワードがあるが、「嫌い避け」とは紙一重。
なんとなく視線を感じることがあるけれど、私の勘違いな気もする。意を決して彼を見ると、大抵パソコンの画面に集中していて、自分の自意識過剰を一人で恥じている。
最近自分が彼を盗み見ることを抑えられず、そんな挙動不審を周囲の人に気づかれている気がして、自律しなきゃと焦ったり、仕事に集中出来なくて忙しさが増すばかり。きっと彼は、我関せず。
でも、なんだか、目が合う?・・・気がする。
彼がふと席を立ち、後ろ姿を目で追ってしまった。彼が振り返り、目が合った。ヤバイ!と思ったのと同時に、私は斜め左から違う人に呼ばれ、何事もないように視線をそのままずらし、冷静に振る舞った。だけど見ていたの、ばれたかも。
数十分後、本当何気なくドアが開いたのを見たら、彼が入室してきて、目が合った。多分私はあまり良い目つきをしてなかったし、元々睨んでると誤解されがちだから、もう嫌!
その後しばらくは集中して仕事をしていたので、彼の行方は分からなかった。
「あの、」
私に用事がある人に話しかけられ、返事をして振り向いた・・・時計回りに顔と体を回した瞬間、私から見て右側3〜4m先にあるコピー機前に立っていた彼と視線が重なった。私はずっと集中していたから、彼が先に見ていたことになる。ボーっと宙を見ていたのでなければ。
平静を装いながら話し相手に意識を向け、笑顔で対応しながらも、視界の端に映る姿が気になる。まだこっちを見てるかな?
もし、俗に言う、ザイアンスの法則=単純接触効果が本当なら、最近の出会いが蓄積され、彼が実は私の存在を認知し始めたってこと?前は視線すら感じなかったし、ほとんど自分の勘違いだったのに、本当に目が合う瞬間がある。
またまた私の自己都合解釈かもしれない。でも、また目が合えばいいと、そればかり願いながら机に向かった。
ザイアンスの法則 みなづきあまね @soranomame
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