第31話
浮気相手たちからせしめた二百万円と今まで頑張って貯めていた貯金を持って家を出る計画は夫に内緒で着々と進めていた。夫が二人目の浮気相手を手玉に取ることができようができまいが、どちらでもよかった。どういう結果になろうと、頑張って成果を上げた夫を見捨てることこそが、私の最期の復讐なのだから。
浮気が発覚した当初は復讐心に燃えていたが、不快な日々の連続に徐々に心が付いて行かなくなった。そして夫と復縁して何事もなかったかのように暮らすことも不可能だと思っていた。自分の心の声を確かめながら、私は実家で娘と新生活を始めるための覚悟を固め始めていたのだった。
実は一度目の浮気が発覚した時から私は自分の実家に相談をしていた。母を亡くし一人で生活している父は突然の相談と報告に戸惑っていたが、老齢での一人暮らしという寂しい境遇もあってか、娘と二人で帰ることを反対はしなかった。むしろ話を詰めていくにつれてどこか嬉しそうに私たちを待ってくれているかのような雰囲気を出すようになっていった。
先は不安だが、不安の種を家に持ち込んでくる人間と暮らすよりはストレスは少ない気がする。離婚になれば慰謝料や養育費も月々いくらか受け取ることもできるだろう。いや、受け取ってみせる。支払いを渋ったり拒んだりしたときにはどんな手段を使ってでも追い込んで支払わせてやる。今までの経済的に安定した生活と不安定な新生活を天秤にかけた私の覚悟を思い知らせてやるのだ。
ある日突然、一人ぼっちになって茫然としている夫を思い浮かべると久々に自然な笑顔を作ることができた。今なら嘘のない最高の笑顔を娘に見せられる気がする。
共犯 千秋静 @chiaki-s
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