第30話

 夫からもう一人の女と関係を持てたという報告を受けたのは叫んだ夜から数か月後のことだった。

 

 職場で不倫相手を見つけて、まわりにばれないように口説いて関係を持つまでには相当労力を使ったことだろう。この結果から夫が言っていた「やり直したい」という言葉に嘘はなかったのだということがわかった。夫はただの男としてなら優秀なのかもしれない。私の命令に従って、しっかり二人目の女を見つけて金を用意させるところにまで扱ぎ付けられるのだから、なかなかの男だとほんの少しだけ評価したくなる。


 かと言って、常識では褒められたものではない。私たちは常軌を逸したことをして人を傷つけ、金銭をせしめた共犯だ。法に裁かれていないだけで、心の残る重い罪を犯している。だが罪を犯し、復讐めいたことをしてみても結局自分の心の内は何も変わらなかった。


 復讐して相手を傷つけても、自分の罪を後悔しても、一度砕けたガラスが元通りにはならないように、家族の絆ももう元通りにはならない。どんなに足掻いてもどうにもならないことはこの世にはたくさんあるのだ。私は罪を犯して身を持ってそのことを痛いほど知った。


 夫も気付いているだろうか。いや、鈍い彼のことだから、今は目先のことしか考えられていないだろう。私の予想では広い家の中で一人ぼっちになって初めて気付くのではないかと考えている。

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