不穏な空気を感じながら1

「え、もう二十層行ったんですか」


 ギルと話をしつつ食事をした後買い取りのところに戻ると、チャールズはまだ仕事をしていた。

 買い取り担当だからそもそもギルドに出て来る時間が遅いらしい。

 買い取り担当はチャールズともう一人、俺は会った事がない夜間のみを担当している男性だ。

 ギルドは休みなく営業しているから、夜間担当というのはどの部署にも存在している。受付窓口にいるのはすでに入れ替わっている夜間担当の男性達だ。


「ええ、なんだか進んでしまいました」


 なんでか、そうだよなあ。

 もう少しゆっくり進むつもりだったんだが、精霊王のところから戻って来た後、もやもやしている気持ちを消す様にユーナが魔法を連打して魔物をさっさか狩ってしまいあっという間に進んでしまったんだ。

 俺は殆ど動いていない、ユーナの側にいただけ。

 初心者がたった二日で二十層なんて、誰が信じるって話だ。


「ヴィオさん、ユーナちゃんに無理させていませんか。さすがに今日だけで十一から二十なんて強行軍過ぎませんか」


 チャールズは心配そうにユーナを見ているけれど、本人は何を心配されているのか分からない顔をしている。


「ええと、私は大丈夫ですよ。ヴィオさんが道を知っているから無駄なく進んじゃいましたけど。二十層も私一人で狩ったんですよ」

「え、えええっそうなんですか。凄いですね」

「二十層に入る手前で風の中級魔法が使える様になったんです。お陰で問題なく二十層の守りの魔物を狩れました」


 にこにことユーナはチャールズに説明している。

 中級魔法が使える様になったというのは、チャールズに聞かれなくても話す予定だった。

 下級冒険者になったばかりで、迷宮にも昨日初めて入ったばかりのユーナが二十層の魔物を一人で狩ったなんて、疑ってくれと言わんばかりの行いだ。

 だが、ここの迷宮の魔物はそもそも強くないから、中級魔法が使えるならそんなに苦労せずに狩れるんだ。


「え、中級ですか、凄いですね」

「昨日火属性の中級魔法を一つ使える様になったんですけど、今日は風と水が使える様になりました。三種類中級魔法を使える様になったし、明日は三十層に行けるんじゃないかしら」


 ユーナは物凄く強気の発言をしている。

 こうなると俺は苦笑いしているしかないが、ユーナの魔法の実力ならあながち無謀な発言というわけでもない。


「凄いですねえ、ユーナちゃん。もう中級魔法使えるんだ」

「はい。暇さえあれば魔法の練習を練習場でしていたので、そのお陰ですね。ギルさんが練習場で練習した分も熟練度に入るって言ってたので頑張ってたんですけれど、本当だったみたいです。そうじゃなきゃこんなに早く中級魔法使える様にはならないと思います」

「ああ、そうなんですよ。練習場の的は魔力で作ってるから、あそこで練習すると熟練度が迷宮よりは少しあれですけど、熟練度は上がるんです。皆さんあまり使ってくれないんですけどねえ」


 チャールズは実はこのギルドの副ギルドマスターなんだそうだ。

 その割にチャールズは冒険者達に舐められている気がするが、事務方を纏めるのが主な役目らしく、事務方達にはそれなりに怖がられているらしい。


「んー、練習場の的の使用料が自分の魔力でいいんですから、ある意味使いやすいと思うんですけど」

「そうですか?」

「だって使用料って的の魔力消費分のみですよね。だったら自分で的に魔力を込めたら料金掛からないって事ですもん。一日一回でも二回でも練習すればその分熟練度あがるんですよ。迷宮からギルドに戻って来る間に魔法一、二回分程度の魔力は回復しているでしょうし、それを使えば出来るんじゃないかしら。宿に帰れば魔力って体を綺麗にする浄化程度にしか使わないし、寝てれば回復するし、それ考えると使わないと勿体ない気がするんですけど」


 ユーナが何だか俺みたいな話をし始めたと思ったら、チャールズはポカンと口を開いてユーナを見つめた。


「ユーナちゃん」

「はい」

「ユーナちゃんって、ヴィオさんみたいな考え方するんですね」

「ヴィオさんですか」

「ええ、ヴィオさんってなんだかんだ言って、守りの魔物の狩り方だけでも効率重視的なところある気がしているんですが、ユーナちゃんもそうなんですね」


 なんか俺、チャールズに馬鹿にされていないか?

 俺は迷宮に行くなら沢山素材や魔石を持ってきたいし、一つ目熊の熊の手は特に早く沢山欲しかったのだから魔物寄せの香を使って狩っただけだ。

 それの何が悪い。


「効率重視というわけではありませんけど、魔法の熟練度を安全に上げられるんですから、自分の魔力が使えるなら私はギリギリまで練習場で使いたいと思っちゃう方ですね。それがヴィオさんの考え方に似てると言われるなら、常に一緒にいるから考え方が似て来ちゃったのかしら」


 ちょっと待て、ユーナにその意図は全くないのは分かってはいるが、そういう照れた様な顔でこちらを見ながら話されると無駄に俺も照れるじゃないか。

 ああ、全くこういうの困る。

 まるで初めて好きな人が出来た様な、成人前の子供の用な気持ちになってくる。

 もう三十のオッサンが、こんな感情は恥ずかし過ぎるだろ。


「えええ、ユーナちゃん、それはあまりに思考がヴィオさん寄りになり過ぎですよ」

「こら、チャールズ、なんだそれは」

「え、あ、だってヴィオさんはヴィオさんで、ヴィオさん過ぎるというか」

「ふん、魔法使いは熟練度が上がれば発動した魔法の攻撃力も上がるんだ。少しでも機会を逃さず練習して何が悪い」


 チャールズはこの町で生まれて育ったらしく、ギルドの研修で王都に行った以外はあまり他を知らないらしい。

 剣士や弓等の鍛錬場は兎も角、魔法使いは中級、上級の迷宮がある町のギルドの方が魔法の練習場は使用されている傾向にあるんだ。

 迷宮から帰った後、残った魔力が勿体ないから練習場で魔力を的発動装置の魔石に充填して小金を稼ぐとか、自分の魔力を使って一回でも二回でもいいから魔法を使うとかするんだ。

 魔力は食って寝れば翌朝には回復している。

 だから、使い切らなかった魔力を残すのは勿体ないって考える奴が多いんだ。

 魔法使いが魔法の熟練度を上げるには、魔法をとにかく使いまくるしかないからその気持ちは分かる。


「魔法使いの熟練度を上げるには、とにかく魔法を使うってのが一番だろ」

「それはそうかもしれないですね」

「ユーナが特種に見えるのかもしれないが、上の級の魔法使いは宿に帰る前に少しでも魔法が使えそうならギルドで使うのって、そんな珍しい話じゃないんだぞ」


 俺達の話に注目している冒険者達の存在を背中で感じながら、俺は少し声を大きくして話す。

 ただの興味なのか、少しでも強くなりたいのか。

 どちらか分からないが、強くなるための参考にしたいと聞いているならそのとっかかりになりそうなネタを教えてやるのは、年寄りの役目だ。


「宿に帰って寝るだけなら、残ってる魔力を使い切る方がいいだろ。魔力量が増えるには寝る前に魔力を使い切る事っていう説があるくらいだからな」

「えええっ、そんな説あるんですか」

「あるんだよ。本当かどうか分からないがな。だから、魔法使いは辛くても一、二回程度魔法が使える魔力が残っているなら迷宮から帰って来たら練習場で魔法を使うとか、魔法は使わなくても魔力充填をして小金を稼ぐとかして、寝る前に浄化を使って魔力を使い切るってのをした方がいいんだよ。まあ実際増えるかどうか分からないんだか、増えなくても一度でも多く練習すればその分魔法の熟練度は上がるし、魔力充填すれば小金が稼げるんだから悪い事はないだろ。むしろ余った魔力が金と熟練度になるんだから徳しかないって俺なら思うけどな」


 魔力を使い切って、魔力切れに近い状態で寝ると翌朝魔力量が増えるんじゃないかと言い出したのはリナで、そのリナの言葉でトリアとジョンは家で寝る前に魔力を使い切るというのが当たり前になった。

 それが勘違いなのかどうか分からないが、魔道具に使う魔石に魔力を充填することで日常使う魔道具の魔石代が浮くし魔力を使い切って寝ることが出来るので、それだけでも役に立っている。

 ちなみに、はやぶさでは空の魔石に魔力充填を行ったら銀貨一枚の金を払う事になっていた。まあ気休め程度の金だがトリアは喜んでいた。


「うーん、皆さん魔力量なんて迷宮から帰ってきたら魔力切れ寸前ってのが多いですからねえ」

「それなら、迷宮に入らない休みの日だけでもやればいい。少なくとも魔力充填はギルドで依頼として出してるだろ」

「出してますね、ユーナさん以外に受ける人いませんが」

「ユーナ、受けてたのか」

「だって、椅子に座って充填するだけでお金になるし、依頼達成扱いになるんですよ。受けない理由ありますか」


 恥ずかしそうにユーナがそう言うと、背後から動揺の声が上がった。

 うん、俺も理解した。

 ユーナの考え方俺に似て来てる。



※※※※※※

ギフト頂きました、ありがとうございます。

勘違いだったらごめんなさい。

お名前変わりましたか?

いつもギフトありがとうございます。

そろそろ、また小話アップする予定ですので読んで頂けたら嬉しいです。


短編をアップしました。

ホラーの様なそうでない様なですが、良かったら皆様読んで頂けたら嬉しいです。


https://kakuyomu.jp/works/16817330649415180828/episodes/16817330649416363118

 

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