ユーナが貰った能力とギルの謝罪5
市場で色々買った後俺達はギルドに向った。
早い時間には開いていない屋台にユーナは興味津々で、ギリギリで閉めていなかったいつもの店で買いだめ用の野菜を買った後、ユーナの興味を引いた物もいくつか買っていく内にすっかり日は暮れてしまった。
「あ、ヴィオさんユーナちゃんおかえりなさい。今日は遅かったですね」
「ああ、ついつい夢中になってな」
「そうでしたか。そうだ、お時間大丈夫ですか、ギルマスが二人が戻ってきたら顔を見せて欲しいと言っているんですが」
ギルドの中に入ると、受付がいつもの顔ぶれではなく見たことが無い男性が二人座っていた。
それを横目に買い取りの方に向かえば、丁度空いたのか買い取りした素材を持ったチャールズが、何やら事務方の職員と話をしているところだった。
「分かった、行ってみる」
「はい」
「買い取りは後で寄るよ」
「はい、お待ちしています」
片手を挙げてギルドの奥へと進みギルの執務室へと続く廊下を歩く。
灯りの魔道具はあるもののそれでも薄暗い廊下を歩いていると、何となく気持ちが沈んでくる。
長く一緒にいた仲間との別れは、俺は自ら選択したけれど未だに引きずっている。
ギルとラウリーレンの関係は、ラウリーレンのやらかしが無ければ良好だっただろう。
ラウリーレンは何度も生まれ変わっているらしいから寿命が尽きての別れは今回が初めてではないのだろうが、今回のはいつもとは違ったんじゃないかと思う。
「ギルさん、大丈夫でしょうか」
「どうだろうな」
ユーナの声も何となく沈んでいる気がするのは、ラウリーレンを思い出しているんだろうか。
「どうぞ」
躊躇いながら扉を叩くと中からギルの声がした。
「よお。チャールズがお前が呼んでるって言ってたら来てみたが、こんな時間でもいるんだな」
「ええ、私はあまり睡眠は必要ではありませんからね。帰るのはいつももっと遅いのですよ」
執務机に座ったまま、穏やかな顔でギルは笑う。
「そうか、ならいいが。座るぞ」
「ええ、どうぞ」
何となく気まずい空気を感じながら、ユーナと並んで座ると、ギルは執務机から俺達が座るソファーの向かいに腰を下ろした。
「今日は申し訳ありませんでした」
「ギルが謝る事じゃない」
「それでもあれは私の精霊でしたから。ずっとずっとそうでしたから」
ギルはそう言いながら、笑っている。
笑っているが、泣いている様にも見える。
「ユーナ」
「はい」
「ラウリーレンの羽をありがとうございます。あの精霊は愚かな行いをしたと言うのに生まれ変わりを許してくれて、本当にありがとうございます」
「私は許さないって言いました。実際許していません、私が死んだ後ラウリーレンがどうなろうと構わないから羽を戻しただけです」
ユーナは何故かそこだけ頑固に許していないと言い張っている。
「私は許さないし、ずっとラウリーレンがしたことを覚えているし、だからラウリーレンの事も忘れたりしません」
「ありがとうございます」
「もー、お礼言われることしてないですよ。ラウリーレンの能力まで譲り受けてるのに、羽まで奪ったら謝罪の貰い過ぎなだけだから戻したんです。それだけです」
なんていうか、ユーナ誤魔化し方が可愛いな。
全然誤魔化せていないのは本人も自覚してはいるんだろうが、それなら素直にラウリーレンを許していると言えばいいのに。
「魔力を奪うとかポポちゃんのこととかありましたけれど、ラウリーレンとは喧嘩友達みたいなものだった気もするんです。私が作ったお菓子あの子ギルとライさんの分まで奪って食べてたじゃないですか。それを私が怒って、それでもラウリーレンが食べてあげるんだから感謝しなさいって」
「そうでしたね。あの子は普段人が作った物など口にしないのに、ユーナの作ったお菓子はかなり気に入っていて、でも聞くと私が食べる前の毒見だと」
「そうそう。毒見って失礼ですよね」
俺が迷宮で一つ目熊を狩りまくっていた間に、ユーナはギルとライとラウリーレンと親しくしていたんだな。
知らない者ばかりの場所で、知らない世界でそうやってユーナは積極的に交流をしていた。
あの我儘な精霊は、そう考えるとユーナがこの世界の人間に馴染為にはちょうどいい相手だったのかもしれない。
なにせラウリーレンは遠慮が全く無かったから、ユーナも遠慮なく強気でいられたんだ。
「ギルさん、ラウリーレンがよく独り占めしていたものでも食べませんか」
「え」
「凄く簡単なんですよ。ギルさん沢山食べて味を覚えて下さい」
「ユーナ」
「作り方は後日書いて渡します。ラウリーレンが生まれ変わったらそれをギルさんが作って食べさせてあげてください」
「ユーナ、でも私はもう、そんな資格はあるんでしょうか」
資格、ラウリーレンは生まれ変わった時の契約する相手は、きっとギルがいいと思っているだろう。
無理かもしれないと思いながら、それでもそれを望んでいるだろう。
「資格があるかないか私には分かりません。私とラウリーレンの付き合いなんて一ヶ月程度ですから。私は私の我儘で、ラウリーレンにもう一度このお菓子を食べて欲しいだけです。だって、あの子口いっぱいにこれを頬張って、頬をぷっくり膨らませて……ギルの為の毒見にお皿一つ分食べちゃうんですもん。あの顔もう一度見てみたいから、でも私では見られないからギルさんに託します」
「分かりました。ラウリーレンが生まれ変わったら必ず食べさせます。ですから私に作り方を教えて下さい」
「はい。とりあえず今日はこれを食べて味をしっかり覚えて下さいね」
テーブルに載せられたのは、フレンチトーストとユーナが言っているものとオムレットと言っているものだった。
実はこれは俺も好きなお菓子だ。
フレンチトーストは夕方には硬くなっているパンを柔らかく食べる為に良いのではと、ユーナが宿の女将に提案したものだ。
味付けは甘くも塩味でも出来るらしいが、俺は甘いものしか食べたことはない。
「これは普通の卵液に浸したもの。こっちは同じ卵液に浸して焼きながら最後に砂糖を振りかけてカラメルっぽくしたものです。オムレットはカスタードクリームを挟んだものとバタークリームを挟んだものがあります。ラウリーレンはカスタードクリームの壺に飛び込んでましたから、多分これが好きだったんだと思います」
「飛び込んだ?」
「そうですよ。この壺。これに沢山カスタードクリームを詰めてライさんに渡そうとしていたのに、ラウリーレンがもっと食べると言って飛び込んだんです」
ユーナは懐かしそうに笑いながら話す。
「そうですね。あの子は好きなものは全部ひとり占めしようとして、ユーナにいつも怒られていましたね」
「本当ですよ。でも、あの子顔中クリームだらけにして嬉しそうに食べるから、ついもっとあげようかと思っちゃうんですよね」
ユーナはお人よしだ。
優しくてお人よしで、その気持ちが優しい魔力に繋がるんだろう。
「ギルさん、もっとラウリーレンに時間があればきっと私ラウリーレンと友達になれたと思うんです。でも私は人族できっとラウリーレンが生まれ変わるまで生きてはいられないから。だから、またラウリーレンにこれを食べさせてあげてください」
「分かりました。必ず作り方を覚えて私がラウリーレンに食べさせます。ユーナありがとう、あなたがそう言ってくれなければ私はラウリーレンが生まれ変わってもあの子のところに行く勇気が持てなかったでしょう」
ユーナはそれを分かっていたんだろうか。
オムレットとフレンチトーストをギルの皿に載せ、俺の皿にも載せる。
「美味しい。甘くてふわふわしてなのにしっとりしている。夕方にはパンは硬くなってしまうのに、これはずっと柔らかくて甘くて美味しい」
「沢山食べて、味を覚えて下さいね。ヴィオさん、甘いもの以外も出しましょうか。そうだ、ありあわせになりますけれど、ここで夕食頂いちゃいましょうか。ギルさんいいですか。一緒に夕食如何ですか」
「ええ、是非」
口の端にカスタードクリームを付けながら、ギルは笑顔で頷くからユーナはマジックバッグから色々な料理を取り出したんだ。
※※※※※※
ギフト頂きました。
ありがとうございます。
まだまだ作品タイトルみたいになるには程遠いヴィオ達ですが、将来的には嫁ちゃんとのんびり暮らしをする筈です。
というかなって欲しい。
とりあえずハーレム展開にはなりませんのでご安心下さい。
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