ユーナが貰った能力とギルの謝罪4

「名前は分かったが、これが普通の料理と何が違う」


 見ると竜肉の香草焼きと、竜肉の煮込みも見たことが無い綺麗な皿に盛り付けれれている。

 香草焼きの方は、こんがりと焼かれた肉の上に細い葉が付いた枝の様の物が見えていて、食材には無かった人参とトウモロコシを焼いたものが付け合わせに盛られている。

 煮込みは茶色のとろりとしたタレの中に、骨付きの肉と根菜が何時間も煮込んだ様に柔らかそうになっていて、白いクリームの様な物が掛けられているが、こちらも使っていない食材が沢山ある様に見える。

 どこまでが精霊の台所の魔法の範囲なんだかよく分からない。


『精霊のおやつは使った物で見た目が変わる。効果も使った物で変わるが今回は生命力の向上だな。疲労が酷い場合は疲労と魔力の回復になる』

「そんな凄いのか。生命力の回復じゃなく向上?」


 竜肉は魔力や体力の回復に効くと言われているが、回復薬の様に即回復するわけじゃない。

 

『香草焼きは体力の向上または回復、煮込みは魔力量の向上または回復だな』

「なんていうか、凄いな。料理というより薬だ」


 まあ、向上するといっても微々たる変化なのかもしれないから、期待しすぎてがっかりということもあるかもしれないが、それにしても凄い。

 

『薬は薬草等を持って来て作るものだから、別物だな』

「いや、そうだろうが。食事でそんな効果があるものなんて聞いたことがないぞ。しかも材料に無かったものが入っているじゃないか」

「そうですね。こんな野菜使っていませんし、これデミグラスソースに生クリームですよね。なぜお肉と葉っぱだけでこんな凄いものが、それに食器が」

『その器は嬢ちゃんが作る時に思い浮かべた物だろう。食べると消える』

「消えてしまうんですか。幻みたいなものなんですか」


 食べた後消えるとはしても、器に入っているのは凄いと思うんだが一体何で出来ているんだろう。魔素なんだろうか。


『精霊の台所は、料理がこの状態なのは作りての嬢ちゃんが思い描いた物が反映されている。その見たことが無い器は特にそうなんだろう』

「私が思い描いた物。そうかもしれません」

『嬢ちゃんが使いたいものは料理以外に使う物でもあの中でなら何でも作られるが、魔素では無く魔力を使った場合、嬢ちゃんの魔力でも維持しつづられるか分からない。まだ熟練度が低いから少し意識がそれただけで支障が出て来る。さっき料理を作り始めた時に動けなくなっただろう』

「え、あれはそういう仕様なのかと」

『いいや、あれは意識が料理に集中してしまったからだ。慣れて熟練度を上げれば動けるようになる』

「料理以外で使う物でもあの場に作れて、慣れれば料理中も動けるんですね。あの本当に何でも作れますか、料理に全く関係の無い設備でも。私がしっかり意識して思い描けば出来ますか」


 なんだろう、なんだかユーナのやる気がみなぎっている様に見えるんだが。


「食材は、どんなものでも何か作れるんでしょうか。トレントキングさんから頂いた葉は必須ですか」

『無くても問題ない。色々試してみればいい。こいつとトレントキングが遊んでいる間嬢ちゃんは暇だろう。ここは魔素が他の迷宮よりも濃いし精霊の台所を使っている間は魔物を気にすることもない』


 それはありがたい話だ。

 トレントキングと戦っている間、ユーナが心配だったからな。


「でも、あの私」

『こいつは自分の目的の為時間を使う。嬢ちゃんはその間無駄に見ているだけでいいならそれでもトレントキングは構わない。だが人の一生は短いぞ』

「それは、そうですが。……そうですね。ヴィオさんは精霊王と戦う為という目的もありますが、トレントキングと戦って自分の力を上げるという目的もありますよね。その間本当は不安だから見ていたいですけれど、私は私で能力を上げられる様になった方がいいですね」


 さっきの話が効いているんだろうか、ユーナは俺のやる事を止めず、それを自分が見ていないところで行っても良いと言っているんだ。


『そうだな。その方が無駄が無い。嬢ちゃんもトレントキングと遊びたいならいつでも相手になるがな。ハッハッハッ』


 トレントキングは呑気に笑っているが、さすがにユーナにトレントキングを相手にさせるつもりはない。

 かなりの魔法を覚えているし、少し使いこなせる様にはなってはいるがまだユーナは迷宮攻略を初めて二日目なのだ。


「トレントキング、それは笑えない冗談だな。暫くは俺に着き合ってもらう」

『おお、いつでもいいぞ。トレントキングはお前に呼ばれるのを楽しみにしている』


 機嫌よさげなトレントキングを置いて、俺達は境い目の森を後にしたんだ。





「はあ、長い一日だったな。ユーナ疲れただろ」


 迷宮に戻り外に出ると、もう夕暮れだった。

 今度は二十層の守りの魔物の層にユーナと飛べた。

 やはり迷宮は入ったことがない層には飛べないんだろうか、でもなんか引っ掛かるんだよなあ。


「疲れましたけれど、精霊の台所で何を作れるか考えるのは楽しそうだなってわくわくしています」

「そうか」

「さっき作った料理、ポポちゃんが戻ってきたら三人で食べませんか」

「そうだな。ユーナが精霊魔法で作った初めての料理だから、そうしよう。ポポの食べられる物もあるし、ポポも喜ぶんじゃないか」


 あの小さな精霊が俺達の元に帰って来るのはいつだろう。

 ギルの話ではそろそろらしいが、さっき精霊王はポポの事は何も言わなかった。


「市場のお店閉まっちゃったでしょうか」

「そうだな。野菜なんかを扱っているところはそろそろ閉めて夜用の屋台と替わっているいるかもしれないが、何が欲しいんだ」

「旅に出る時の食材を買い始めようって話していましたよね。一度に沢山買うのはお店に迷惑になるかもしれませんから、少しずつ買おうかなって」

「ああ、そうだな」

「それに、色んな食材で精霊の台所試してみたいですし、普通の料理も出来るならそれも試したいです」


 笑顔で話すユーナと手を繋ぎ歩きながら、不思議で便利な魔法もあるんだなと考える。

 疑問なのはなぜギルはラウリーレンに使わせなかったのかというところだ。

 あの作り方なら料理の出来そうにないラウリーレンでも作る事は出来た筈だ、でもギルはラウリーレンに使わせなかった。

 精霊のおやつという、精霊の糧となるものは今回は生命力の向上の効果があるとトレントキングは言っていた。

 使う食材により効果は違うらしいし、煮込みの様に魔力量の向上出来るものがあったらそれでラウリーレンの能力は上がって行ったんじゃないんだろうか。

 ギルはエルフの中でも強い方の様な気がするし、良い食材も簡単に集められただろうに、なぜ使わなかったんだろう。

 ユーナに魔素で精霊魔法を発動する方法を言わなかったこともだが、ギルの行動は不思議なところがある気がしてきた。


「少し時間が遅いと風景が違って見えますね」

 

 いつもより遅い時間、いつもならもう宿に戻っている時間に歩く町の様子が気になるのか、ユーナはきょろきょろと辺りを見渡しながら楽しそうにしている。

 ユーナは怖がりだからと避けていたが、だいぶこの世界に慣れてきた気がするから、そろそろ俺と一緒なら夜の時間帯でも外に出ていても良いかもしれない。


「今日は何か食べてから帰るか」

「うーん。どうしましょう。買い物したいですがギルドにも寄りますよね」

「そうだな。別に買い取りは今日じゃなくてもいいが、ギルの様子は気になるから顔は出しておきたいな」

「ですよね。ギルさん大丈夫でしょうか」


 長年一緒にいたラウリーレンを見送ったんだ。

 平気ではないだろうな。


「羽を戻したこと、私後悔はしていませんがギルは本当はどうしたかったのかって考えちゃうんです」

「ギルも戻したかったと思うが、どうだろうな」

「ラウリーレンは自分の寿命が終る時期を知っていたんじゃないかって思うんです」

「どうしてだ」

「自分の寿命が尽きてしまうから、焦ったんじゃないのなって、だから必死だったのかなって思うんです。やり方は完全に間違っていたと思いますけれど、ギルさんの側に居たかったのかなあって」


 どうなのか分からない。

 ラウリーレンはただユーナの魔力に惹かれただけなのかもしれないし、すぐに格を上げたかったのかもしれない。

 何を考えてもそれは俺達の想像でしかなくて、答えは謎のままだ。


「ユーナ、ギルになにか美味いもの渡してくれないか。あいつあんまり食に関心ないみたいだが、その、さ」

「……ギルさん、甘いものは割と嬉しそうに食べてましたよね。じゃあギルドに戻ったら色々出してみましょうか」

「ありがとう」


 一人になりたいかもしれないが、一人でいない方が良い時もあるよな。


「ヴィオさん、やっぱり優しいんですね」

「なんでそうなるんだ」

「ふふ、なんとなくです」


 何故かユーナは俺を見て笑ったんだ。


※※※※※※

レビューありがとうございます。

そういえば最近オッサン主人公の作品よく見る気がしますね。


これ、ずっと昔に書き始めて、あまりの反応のなさにエタってしまっていたお話なんですが、長い事放置していたこの話にレビューを頂いて、まだ読んで下さってる人がいるんだと驚き過ぎて更新を再開し、気がついたら百話超えしていました。

何が幸いするか分からないものです。

 

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