ユーナが貰った能力とギルの謝罪3

「うわぁ、全然違います」


 トレントキングに指導を受けて魔力の代わりに魔素で魔法を使っているユーナは、何だか興奮している様に見えるが俺には何に興奮しているのか分からない。


「意識を変えただけで変わるなんて、魔法みたい。あ、魔法使ってるんでした」


 興奮しすぎて変なことを言っているユーナが少し面白いが、初めて使う魔法を操っている途中だから口出しせずに見ているだけだ。


『精霊魔法は基本魔素を使う。お前が精霊魔法を使う時、魔素の濃い場所ならそちらを使うといい。そうすればいくらでも魔法が使える。お前なら慣れてくれば人族の魔法も同じように魔素で発動出来る様になるだろう。エルフならそうやって使えるからな』


 トレントキングは親切にユーナに教えてくれているようだが、その説明を聞いて俺の顔が引きつった。

 ただでさえ魔力が多いユーナが、使い方に慣れてくれば魔力では無く魔素を使って精霊魔法だけでなく、普通の魔法まで使い放題になるかもしれないだなんて、そんなのあり得るのか。

 いや、精霊魔法だけでも魔素が多い場所なら使い放題だなんて、凄すぎるだろ。

 そこまで考えて、そう言えば俺が覚えた精霊魔法も魔素を使うのだから理屈は同じだと気が付いた。

 トレントキングの言い方だと、精霊魔法は魔素を使うのが当然みたいに聞こえるが、ギルは俺にだけ魔素を使うやり方を伝えていたから、俺もユーナも魔力が少ない俺はそうして魔法を使えと言われたのだと勘違いしていたんだ。

 でも、なんでギルはユーナに魔素を使わせようとしなかったんだろう。

 

「でもそういう使い方、何となくズルみたいに思えてきますけど良いのかしら。私魔力多いのに。本来持っていない魔素まで使うなんて」

『トレントキングは、使えるものは何でも使う。それが正しいと思っているし使える物を使わないのは馬鹿だと思う。魔素が薄いところでは魔力を使う、そうでなければ魔素を使う。どちらも使えた方がいいだろう。そうは思わないか』

「そう……ですね」

『そうだ。だから自分の本来の力ではないと思うのは愚か者だと思う』

「魔素は兎も角、これは元々ラウリーレンの能力でした。それを私はラウリーレンの行いの代償として貰い受けました。でもそれは私の本来の能力とは違うと思ってしまいます」


 ユーナの気持ちは分かる。

 ポポと契約して得た魔法を使うのも、俺には少し抵抗がある。

 回復魔法も魔物を狩る為に有効な魔法も、そういう意味では俺にとって自分の能力では無い借り物のようで抵抗があるんだ。

 本来俺は魔法なんて使えない。

 魔力が俺には殆ど無くて、使えてもせいぜい生活魔法程度なんだから迷宮で魔物を狩れる魔法なんて、俺には過ぎたものだと思っていた。

 そうは言いつつも転移の魔法を便利に使おうとしているのだから、自分でも矛盾しているとは思う。


『人族の魔法使いは魔法を覚える為に魔導書という物を金を出して買うのだと、トレントキングは聞いたことがある』

「はい、私が魔法を覚える時ヴィオさんは持っている魔導書を私に使わせてくれました。私は魔法をそれで覚えましたし、精霊魔法の一部はギルさんから魔導書を頂いて覚えました。そうか、それと同じ事ですよね。それなら覚えている魔法を使わない方が駄目、ううん。トレントキングさんが言う様に馬鹿ですね」


 ユーナの言葉に俺はハッとしてユーナを見つめた。

 使える能力があるのに、変なこだわりで使わないのは俺だ。


『自分で気が付くだけ嬢ちゃんはマシだ』


 トレントキングの姿は今ここには無い、声が聞こえるだけだが今笑われた様な気がする。


「使えるものは何でも使って使いこなせる様になる。その方が良いですね。トレントキングさん、気付かせてくれてありがとうございます」

『ふん、礼などいらない。それより今は精霊の台所の使い方だ。嬢ちゃん達がいる場所は精霊の台所そのもの。覚えて置け、ここで嬢ちゃんは料理をと薬を作る』


 料理はいいが、薬? ユーナは薬師の能力は持っていなかった筈だ。それなのに薬を作れるのか。


「薬ですか」

『そうだ。精霊の台所では料理と薬を作る事が出来る。だがラウリーレンは殆ど使っていなかった。あの精霊の契約者は力が強いエルフだから、精霊が作る料理等さほど必要としていなかったのかもしれないが、それは愚かな行いだとトレントキングは思う。精霊が作る料理は契約者の能力を上げるからな』


 元はラウリーレンの能力だった精霊の台所という能力は、精霊と契約者にとって大切な能力だったみたいだが、どうもラウリーレンはそれを全く使っていなかったらしい。

 トレントキングから分かるのはその程度だが、ラウリーレンが使わなかったというよりもギルが使わせなかったのだろうか。


「あの、私はどうしたら」

『この場で嬢ちゃんが好きに料理を作れば、作った分だけ熟練度が上がる。それは普通の料理の力が上がる程度だ。だが、特殊な食材を使って竈を使った場合は出来た物が薬となるし、物によっては精霊の糧になる。竜の肉とトレントキングの葉は食材としては良い物だから、嬢ちゃんでも精霊の糧を作れるだろう。これは料理の腕が関係しているのではなく、精霊の台所の熟練度が関係する。まあ料理の腕がいい事にこしたことは無いが』


 それは今のユーナだと精霊の台所の熟練度が低いから、それなりの食材ではそれなりのものしか作れないってことなんだろうか。

 トレントキングはユーナが今持っている竜肉とトレントキングの葉で何かを作らせようととしているのは分かるんだが、一体何が出来るんだろう。


『説明よりもやってみた方が早い。竈の前に食材を持って立ちそれに魔素を込めるんだ。そうすれば今何が作れるのか分かる。人が普通に食べるものを作る場合は、そこの竈を使い料理をするが精霊の台所の魔法の場合は今作ることが出来るものが頭に思い浮かぶ、複数出たら何を作るか選択すればいい』

「分かりましたやってみます。ええと、作れるものは、精霊のおやつ? 竜肉の香草焼き? 竜肉の煮込み? 三品作れるみたいなので、全部作っちゃいます。せーのっ」

『おい、それは無茶だ。一度に全部だと。嬢ちゃん、それは無茶だ』


 トレントキングが慌てている。

 慌てているトレンドキングの声に俺も慌てるが、ユーナを見守るしか出来ない。

 ユーナが食材に魔素を込め始めた途端、俺の体は自由が全く効かなくなったんだ。

 指一本すら動かせないって、何が起きたっていうんだ。


「出来ました」


 ユーナは何か完成させたらしい。

 ホッとした気持ちはつかの間で、幻の様な場所は溶ける様に消えてなくなり元の場所へと戻った。

 それと同時に俺の体は動けるようになって、ホッとする。

 魔法で作った空間で身動きが出来ないなんて心臓に悪すぎる。


「ユーナ、出来たのか」

「あれ、戻りました? ええと、料理三品全部作れたのかしら? 一つは精霊用?」


 訳が分かっていない様な口調で、ユーナは俺を見ながら出来上がった料理をどこからか取り出し俺に見せてくれた。

 これ収納から出したのか?


「トレントキング、教えてくれこれはなんなんだ」


 体が動かなくなった理由も知りたいが、今はそれよりユーナが作ったものだ。

 目の前にあるのは、ユーナが精霊の台所を起動して作ったらしい三品。

 トレントキングが親切にも自分の枝を使って棚の様なものを作り、その上に載せてくれている。

 

『精霊のおやつと、竜肉の香草焼きと、竜肉の煮込みだな』

 

 それはさっきユーナも言っていた。

 精霊のおやつはポポ用ってことか? 肉を使っているのにトロリとした緑色のスープに見えるし、白い持ち手付きの可愛らしい器に入っている。

 なんで器まで出来ているのか、訳がわからない。

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