「暗がりも悪くないぜ!?」

低迷アクション

第1話



 そう遠くないぜ?未来!誰が想像した?魔法少女が空を飛び交い、能力者の女の子が

自分の机ごと学校を吹き飛ばす。かと思えば、富士山が噴火、中から巨大怪獣が姿を現し、


そいつ倒すために巨大ロボが、放置された渋滞車踏みつぶして進む。

そんな漫画・アニメみてぇな事が日常茶飯事で起きるようになってしまった極東の

島国!!サイコーだね?そんなちょこっと近未来の今を生きてる自分に!

イカレタ世界に乾杯。


って言いたいけど、俺の住んでる界隈には、この手の話や事件がまるで起きねぇ!

皮肉な事にな!!…おっと、自己紹介が遅れてすまない。


俺の名は“ツンドラ・ゴメス(本名)”俺の全身は緑色、鱗が少々。頭にはモヒカンばりのとさかが生えてる。そして目の色は真っ赤。歯の代わりは牙がおあつらえ向きに…ちなみに、この体は生まれつきじゃねぇ。まぁ、最近流行りの放射能って奴さな。


俺のミューティトークは、また今度。そして俺は高校生。今日も愛しの母校“暗羅我離学園(クラガリガクエン)”に通うって訳だ。


すれ違う同級生が声をかけてくる。俺も笑顔で(赤ん坊が泣いちゃう感じの)答える。

この風体に最初は皆ビビったけど、今じゃ慣れたもんだ。


その辺の緩い感じ、狂っちまった奴等の感覚?にだいぶ救われてきた。

俺は結構感謝している。割れた窓と空き缶の転がった廊下を抜け、教室の扉を開ける。


一番後ろの窓際席は席替えで得た最高の栄誉だ。午前の授業は寝て過ごすとしよう。


ゆったり気分で席につく。そんな俺の前に、学生なのに?ガンマンみてぇな帽子被ったひげ面長髪のナイスガイの“レッド(あだ名)”が現れ、奴にしては珍しく興奮した口調で俺に捲し立ててきやがった。


「聞いたか?ゴッサン。何でも昨日、ここら辺で吸血鬼の美少女が出たらしい。しかも、

それがウチのクラスの上村みぬき(カミムラミヌキ)さんらしいぞっ!?ゴフッ(打撃音)つっ!痛えっ、何をしやがる?」


「てめ、この野郎!冒頭の文章読んでねぇのか?そういう異端な萌え爆な話は無いって、


読んでくれてる皆さんに言った数行後に話、改変すんなや。皆さんって誰かって?

皆さんは皆さんだよ!」


「うわっ鼻血出てる!まぁ、いい!!聞けよ。ゴッサン!目撃者は、俺らのメンツの

“やーさん”だぞ?あいつは確かに適当だが、唯一俺達の中で、女の子とイチャイチャ、

いや、人並に


モテる。そいつが言った女絡みの情報だ。確かだよ!」


「どうかな?奴は確かにもてるが、話は嘘くせぇ。こないだだって“地獄の番犬”が出たとか言って、行ってみたら、ガソリン被った犬が燃えてただけじゃねぇか?」


「あの、ホットドッグは最高にイカすジョークだったな?ゴッサン!だが、今回の話は

相当面白いぜ?」


俺の必殺パンチをくらって顔面ケチャップだってのにレッドは全く動じない様子で話を続けていく。(馬鹿な!コンクリートだって砕ける自慢の鉄拳がっ!?)


しかし、上村みぬきが吸血鬼?全くふざけた話もあったってもんだ。彼女は俺達のクラスの中では美少女トップ13(多いのは勘弁な)に入るまじ可愛な子だ。


色白で東洋というより、西洋系。子供っぽい体系にサイドポニーがよく似合っていて、目の色はうっすら緋色がかかった黒。


あの子が体操服姿で体育座りしていた体育の時間はそりゃ盛り上がったもんだ。みんなで


「急な目眩がっ!?光化学スモッグの影響だ。光化学だから仕方がない。そう、仕方がないんだ。全員、姿勢を低く!」


とか何とか言って、匍匐前進、這いずりゾンビスタイルであの子のひざ元ににじり寄っていった。(勿論、その後男子全員、女子と先生にボコられた)


そういや、あの日はお日様が上機嫌で空に跨っていたっけな。上村さんは体調悪いとか言って、休んでいて。曇りの日とか、雨の日は元気なウサちゃんみたいに


制服姿でピョンピョンするんだけどな、その仕草がまた最高で、やーさんなんかは


「お兄ちゃんと呼んでくれていいんだよ!?」


とか言って保健室で注射打たれて、しばらく人形みたいになってたな?


ちなみに彼女の好物はトマトジュースにミートソース、後時々チョコレート。


俺達の学校では昼メシと言ったら学食か弁当と相場が決まっているんだが、

食堂ではミートソース、教室ではトマトジュース啜ってる姿をよく見かけた。


いつだったか、レッドと俺が弁当食ってる時に、この日に限って何故かレッドは

ギモーなんちゃらとかいうRPGのザコ敵みたいな食い物を持ってきていて、


そんでトマトジュースちびちびやってる上村さんに

それをあげたんだよ。そんときの奴の声のかけ方がまたイカレてて、


「ギモーヴ(名前思い出した。)の食感は何と似てるか知ってる?上村さん。」


「ないぞー☆(即答だよ!?上村さん)」


なんて笑顔で八重歯見せて受け取ってたな!上村さん!その後、

何故かレッドは2日程停学になってたけど…そこまで回想して俺は頭を抱える。


(やべぇ、該当要素が多すぎだよ)


晴れの日バッドで雨の日グッド、見た感じ西洋系で八重歯が似合うぜカワイ子ちゃん、

好きなものはトマトジュースにミートソース&ギモーヴ=内臓も知ってたし、

これでもかってくらいに吸血鬼っぽい…


いや、まだ“ぽい”が消えねぇ。大丈夫だ。冷静さを取り戻した俺はとりあえず先を促す。


「で、一体やーさんの野郎は何を見たってんだ?」


「ノってきたな!ゴッサン!いい感じだ。奴の話によれば、昨日の放課後、やーさんの野郎が女の子追いかけて廊下走ってたら(犯罪じゃね?)


人気のない体育倉庫前のトイレから隣のクラスの朝顔(アサガオ)さん、あの長髪が似合う清楚系美人の子な。その首にカップリ齧り付いた上村さんが出てきたらしいぜ?」


「・・・・そいつはスゲェな・・・・てか、モロヤベェ話じゃねええぇぇかっ!?」


絶叫と共に俺の頭の中に「確信」という二文字がしっかりと焼き付けられた…



 こんなやり取りを続けてたら、ちょうど授業が始まっちまったもんで、

話は2時間目終わりの10分休憩時に持ち越しとなった。


そこでようやく気づいたが、やーさんと隣のクラスの朝顔さんは欠席、

学校には体調不良との連絡が入っているらしい。


上村さんと言えばいつも通りに座って授業を受けている。心なしか表情が良い。元気一杯といった感じで、仲良しの女子に飛びついたり、耳元で息を吹きかけたりして遊んでいる。


いよいよキサ臭ぇ。終業のチャイムと共に、こちらにやってきたレッドに続きを聞く。


どうやら、やーさんはそれを見た際に女の子同士でイチャイチャしてるのかと思い、

これをゆすれば脅迫ゲー的展開に持ち込めるかと考え(ゲス野郎が!)


ケータイで写真を撮ったという事だ。奴は詳細とその写真をレッドに送り、気が付いたら

校舎の外に倒れていたらしい。不気味なのは写真付きメールが来た数分後に、レッドへ


「倒れていた」


メールが届いているが、その前の写真付きメールを送った事は

やーさん自身が覚えていない。レッドの説明でようやく自分が体育倉庫まで

女の子を追っかけてきた事を思い出したようだ。


ただ、その後の上村さんの件はさっぱりで、えらく気分が悪いので今日は休むとの事だった。俺は自身のトサカを撫でながら言葉を選び、発言していく。


「記憶操作が可能か…“異能者”ってのは厄介だな。ちなみに写真ってのはどんなんだ?」


「それが、こいつなんだが…」


言い淀むレッドがケータイを突き出す。液晶画面にはトイレの前に立つ朝顔さんが

“マジ恍惚”って言うのか?何か美味いもん食った時に


「幸せ」って感じの顔+エロい事考えてるんだろうなぁ的、あいまいな表情浮かべて

立っている姿が写っていた。


しかし、肝心の


「上村さんが写ってないぞ?」


「ゴッサン!聞いた事がねぇか?吸血鬼は鏡とか写真に写らねぇんだよ。考えてみたら、

全体で写真撮る時とか上村さん“写真に撮られると魂抜かれる俗信が怖くて”とか言って


うるうるしたら、みんながあるある!とか言って納得してた事あったじゃん。」


「ああ、そういや、そんな事もあったね。てか、ゆるいなこの学校…

まぁ、それに助けられてる面もあるが・・・・・・・で、どうする?」


「どうするって?」


「そのために話をしにきたんじゃないのかよ?血を吸う吸血鬼だぜ?何とかしよう的な

流れじゃないのか?」


「いや、そういう話があったってだけだよ?ゴッサン!別に人が死んでる訳じゃねぇし、

朝顔さんも、やーさんだって明日には元になって戻ってくるだろう

(記憶操作ができるという段階で色々恐ろしい事てんこ盛りで考えてしまうが、

レッドの喋りは何だか説得力がある)


それにこんな世の中だ?魔法もありゃ、吸血鬼もいる。俺はこのアンバランスな感じが

気に入ってんだ。それも身近にいたって事が尚更うれしい。そうだろ?ゴッサン。」


最後の部分は俺の面見て言ったのが若干気になるが、まぁ、それは仕方ない。明日になればやーさんも来て、この話も笑い話となるだろう。なかなか刺激的な内容だが、突っ込むべきものではない。いつもの日常を楽しむとしよう。


そこまで考えた俺は急に嫌な視線を感じて、動きを止めた。この鱗肌になってから感じる事のできる“ヤバげな視線”。一体何処から?視線の発信先を探るため、顔を動かさず、意識だけを辺りに張り巡らしてみる。ビンゴ…


発信先は上村さんだ。笑顔でクラスメイトと談笑するその裏で、俺達に殺意と同等の敵意を送ってきている。不味いな…


「どうやら、敵として認識されちまったようだ…」


「はっ?一体どういうこった?」


「仕掛けてくる時間が心配だ。レッド、ふけるぞ?(早退する)ゲーセンでも行こう」


「何だよ?一体。」


疑問を返してくるレッドの腕を掴み、カバンを腕に持たせる。上村さんの前を横切るが、

彼女は特に関心を示さない。周りのクラスメイトもそうだ。いつもなら、茶化したり、


何か声をかけてくるかだが、まるで俺達に注意を向けない。急がねばならない。教室を出る。すれ違う生徒や教師には目もくれずに、


最も、向こうも、まるで関心なしと言った様子だが…


下駄箱から靴を抜き、外に出た。駅に続く橋を渡り切れば、学園の外だ。俺は足を早める。続くレッドも状況を察したのか、無言で歩速を早めていく。いつもより長く感じられる橋をようやく渡り切り、駅に続く道が…


見えてこなかった。気が付けば学校の下駄箱前。恐らく外に出ようとしても同じ事の繰り返しだろう。クソッタレ“包囲”はもうすんでいたって事か…


「ゴッサン、コイツはもしかして…」


「逃げ場がなくなったな、兄弟。作戦の立て直しといこう。」…



 とりあえず教室に戻り、授業を受ける事になった俺達は合間を見て“戦う準備”を始めた。まずは吸血鬼が苦手な銀製品、手元にないから、クラスメイトに聞いて周るが皆無。


まぁ、この辺は仕方ないとしても食堂にあったフォークやスプーンといったものも全部

プラスチックになっていた事に驚いた。手回し良すぎだろ?上村さん。


加えてニンニクを含んだ学食、製品が全て売り切れ、販売中止になっていた。自分のクラスも含めて、数名の欠席者がいたのは、昨日ニンニク関係のものを食べたか、


銀製品を常日ごろから身に着けている人達だろう。その辺の操作も全て可能な

上村さんの能力に舌を巻く。


恐らく昨日、やーさんがメールを送った時点で先手を打ったっていうところだ。吸血鬼も

さすがにデジタルだけはどうしようもなかったのかな?


俺達にとってありがたい事なのかどうかはわからないが…


そうなると次に頼れるのは人間か…敵が仕掛けてくるとすれば日中ではなく、日没。連中が夜行性という伝説を信じるならば、この説は信じてもいいと俺は思う。日中、普通に出歩いている上村さんだが、晴れの日は元気ないし、曇りはOKといっても本調子では無い筈だ。


と信じたい…今日の天気は曇り、今は10月。4時頃には、ちょうど授業終わりには

彼女のベストな時間になるだろう。やーさんの送ってきたメールの時間からも頷ける。


それまでに、こちらも頭数を揃える必要があった。俺はその予想と今後の対策をレッドに

伝えていく。黙って聞いていたレッドは頷きながら答える。


「とすると次は仲間か、心当たりはある。」…


 「いやあ~、申し訳ない。今日は塾がありまして。」


開口一番の言葉に絶望する俺達。仲間の一人、いや、こいつの場合はハッキリしないな。


“柴崎(しばざき)”がたいして申し訳なさそうな表情で答える。情報通で、おまけに

何でも仕入れるこの男。結構期待してた訳だが…


ふと浮かんだ疑問を俺はストレートに聞いてみる。


「塾なんて通う面かよ。まさか上村さんが関係してねぇよな?」


「まぁ、これでも優等生なもんで(自分で言うなよ)上村さん?何か揉め事ですか?確かにあちらさんの周りでは不思議な事が多々起きてますけど…」


やはり、この男は“くえない野郎”だ。ある程度の情報はしこんできてやがる。

それともこの事態に何か気づいているのか?こちらの考えをよそに柴崎が続けた。


「今学期が始まって、およそ半年。月1のペースで休んでる子が増えています。このクラス以外のクラス、多学年の子も含めてね。まぁ、休むといっても最大で1日、次の日には登校してます。


当人達も少し具合が悪くなったくらいの話で、特に何があったとかは

まるで覚えてないらしいですね。


ただ、不思議な事に、その子達が休む前日に必ず上村さんと接触がある。それは確かです。いやぁ~申し訳ない。」


「つまり、彼女に関わると何かがあるかもしれないが、1日休むだけで、後は特に問題ないという解釈でいいんだな?シバさん?」


「のんのん、何かがあったのは全員、女の子だけです。男はどうなのか?そこまでは私も

わかりませんねぇ~申し訳ない。」


望みは絶たれたと言っていい。やーさんは助かってるという僅かな安心材料があるが、

正直秘密を知った俺達にそれが当てはまるとは思えない。


この学園に張られた包囲、結界にしたってそうだ。彼女は焦っている。

自身の生活を乱す存在にいかに対処するか?


こっちは抹殺以外の平和的解決を彼女が思いついている事を祈るしかない。無論、そんな事は皆無なんだろうが…黙り込む俺達に柴崎は


「しょうがない」


といった表情で自身の机から黒いビニールの包みを差し出し、俺達を教室の外へ促す。

階段下の踊り場で渡された包みは、持ってみるとズシリと重い。柴崎の許可も得ずに

勝手に開封する。中から出てきたのは黒光りする自動拳銃(マジかよ)


と俺が口を開くより先に、レッドが割り込み、銃を手に取る。慣れた手つきでマガジン

(弾倉)を確認した後、上部銃口をスライドし構える。


「トカレフ、ノーリンコ・タイプ54か…弾は6発残ってる。どこでこれを?」


「さすがレッドさん!素晴らしいですよ。2ヵ月前に起きたパチンコ店銃撃事件を覚えてますか?構成員くずれの男が玉の出ない台にいらついて店員を撃ったものです。


犯人はすぐに捕まりましたが、凶器だけが見つからなかったんです。勿論、真相は簡単。


たまたまそこに居合わせた誰かが銃を拾い、自宅に持って帰った訳ですね。ところが、

後処理に困ったその人は、それを別の誰かに渡した。


後は繰り返しで様々な人の手を介して、私の所まできた訳ですよ。常識に縛られた人間ってのは面白いもんです。非常識な出来事を常に欲している癖に


いざ手に入ると困ってしまうんです。この銃も御多分にもれずにそういう結果になったという事です。今日は自分の代わりとして、差し上げます。それではこれで。

いやぁ、申し訳ない。」


去っていく柴崎を目で見送り、銃を大事そうに懐へしまうレッドに視線を戻す。


「とりあえず武器は手に入った。で、次の奴は?」…


 「今はそーゆう気分じゃない。帰ってくれ。」


時間は4時間目前、だんだん空が薄暗くなってきた。戦いの時が迫っている。移動教室で

慌ただしくなっている隣クラスに乗り込んだ俺達は椅子に座り込んで動こうとしない

スキンヘッドに入れ墨を入れた(よく見たら漫画の女の子キャラのデザインだった)


男“まっつー(あだ名)”に声をかけたが、体よく断られてしまったという次第だ。

ボソッとこちらに一声かけたその目は落ち窪み、禿げ頭と相まってあまり人の事は言えないが、骸骨か死神を連想させる。思わずレッドに聞いてしまう。


「おい、レッド(小声で)コイツは使えるのか?」


「ああ、ゴッサン、腕っぷしにかけてはぴか一の野郎だ。

俺はガキの頃からの付き合いなんだが、


ちょっとな中学の終わり頃から高校に入るまでにおかしくなっちまって、

いや、ある意味では歓迎できるもんなんだが…」


「彼女が死んだんだ…」


「彼女?おい…マジか…悲しいな…初対面だが…お悔やみを言うぜ。すまんかったな…

邪魔をして、レッド行くぞ。」


「いや、ゴッサン違くて…」


「?」


「たった3ヵ月の命とわかってたんだ。それでも俺には楽しい時間だった。毎日、素敵な笑顔を、俺に向けてくれる深夜の30分間…あの時間だけが、俺の唯一生きている時だった。」


「オイ、お前、それってもしかして…」


「名前はあんり、三無殺あんり(みなころあんり)“吸血戦浄アンリミテッド・フリークス”の主人公だ…」


「あ、アニメね!?現実の子じゃないのな!ってオイ、何だかお悔やみまで言っちまったぜ。この野郎!このやるせない感じ、どうしてくれんだ?コラッ!」


「貴様、彼女を愚弄するか!」


まっつーが初めて感情らしいものを見せ、俺の首を掴み、なんと片手で持ち上げやがった。重量に関しては誰にも負けない自信がある、この化け物ボディーをだ。


「確かにすごいな。オイッ。レッド、コイツは当たりだ。」


「だろ?ゴッサン。」


「何の話だ?トカゲ野郎!」


「お前の大好きなアニメ的女の子に会えるぜ。しかも喜べ!オイ、相手は吸血鬼ときた。

ちなみに考えている暇はもうねぇ。悪いな!巻き込んじまって。勘弁だぜ?」


訝しむまっつーとレッド。会話の途中で、既に俺は気づいていた。午前中に感じたあの感覚が急速に俺達の周りを取り巻き始めている事に。


絡めとられるような視線の先は、教室ドアの前に立った上村みぬき。満面の笑みを浮かべた彼女の口には鋭い牙が光っていた…


 「ウオッ…何だ、これ?どこだよ?ここ!」


レッドが正気付いたといった感じで辺りを見回す。まっつーも同様の様子だ。ここは黴臭い洋館。街の旧市街地、再開発予定地に位置する場所だ。


2人は意識を失っていたようだが、俺はしっかり覚えている。教室で上村さんに会った俺達は彼女が突き出した一本の指を見ているウチに何だか酔ったような感覚に陥り、


学園から1時間のこの場所まで来た訳だ。とりあえず混乱する二人に俺は説明をした。   


「という事は、ここ上村さん家のおうちって事か。まずいな、ご両親に挨拶とか。髭剃った方がいい?」


よくわからない所を心配するレッド。まっつーはと言えば、冷静に辺りを見回し、呟く。


「家じゃない。この雰囲気は(もし自宅だったら、かなり失礼だぞ?)…んっ?…あれを見ろ。」


奴が指さした場所は次の部屋に続くドア付近だ。何か白いものがはみ出している。あれは―


「衣服…まさか上村さん着替え中か!?」


相変わらず、検討違いのレッドは静かな足取りでドアに、にじり寄っていく。自分達の身の危険よりエロスを優先する姿勢は素敵だが、出来れば今は勘弁してほしい。


だが、止まる気はないだろうな。コイツは…仕方なく続く俺とまっつー


「他意はない。他意はないんだぜ。」


誰にする言い訳かわからない内容を呟き、ドアノブを握りしめる。


「そう、だから仕方ないんだぁぁぁ!!」


絶叫というより、喚起の咆哮を上げ、ドアを開け放つレッド。そこに映った光景は、俺達がわずかながらにも期待していた、そう例えば子供用のブラとかつけて、上着を被ろうとして


こちらに気づき(すまん、長ぇな)頬を赤らめる上村さんとか、そんな萌えシチュじゃなかった。いや、確かに“女の子”はいたんだけども…


「うわあああああ、ひがんじまだ。ひがんじま」


「ああ、確かにひがんじまだ!コレ!みんな詳しくは、ひがんじま見てね(宣伝)」


レッドとまっつーが悲鳴とも


「やったぜ!何かエロい」


みたいな声を上げる。確かに何かヒドイ事になってる女の子が色んな器具や管で

(詳しくはひがんじまに書いてあるらしい。読んでくれ。)壁に固定されている。


しかも肌色露出100パーセントで。コイツはまずい。理系が苦手な俺達は(これ理系か?)どうやって外すか、方法はわからないので、とりあえず上着をかける事にする。


その時に気づいたが、彼女の首筋や腕に無数の噛み跡がついているのを

確認し、思わず呟いてしまう。


「くそっ、コイツは酷えな。」


「どーしてー?ゴメスだって人間食ってるんでしょ?」


「いや、食ってねぇよ。見かけで判断すんなや。止めろ!その中井精肉店のおじさんと同じ対応!何だあれ?“ウチは人肉なんて置いてないよ?ヒィィ”って


コロッケだよ!?お使い頼まれただけだわ。てゆうか上村さん!?しまった。自身の日頃の葛藤がぁっ!」


叫ぶ俺、見れば先ほど入ってきたドアに上村さんが立っている。見た目はいつもの制服姿だが、全身からヤバい感じの空気がビンビン出ている。


そして、あれ?よく見たら上村さんあれ、


「ツインテールじゃないっすかぁ。え、何それ?本気だすと髪のびるの?」


「第2形態という事か…」


変化に気づいたのはレッドとまっつーが先のようだ。結構余裕ある二人に少し気分が和らぐ俺。まっつーの講釈が続く。


「ここにいる女の子の様子、そして彼女の名前から察するに正体はカーミラ、

同性の血のみを吸う吸血種の末裔といったところか。」


「さすがだぜ。まっつー。元気出てきたな。しかし名前ってのはどうゆーこった?」


「考えてみろレッド。“かみむらみぬき”名前部分のみぬきは“み”を抜けって事だ。

そして苗字から、みを抜くと、おのずと答えは見えてくる。」


「なるほど、それでカミラね。うんうん…うん?何か違くね?え?だって…」


レッドが手のひらに何かを描き始める。俺は何だか嫌な予感が的中しそうで怖い。


「カムラだよ?カミラにならない。違うんじゃね?」


「いや、そこは彼女のドジっ娘補正って事でいいんじゃないか。そーゆう、

ちょっとしたうっかりは、ポイント高いぞ。」


「いいな、それは!!確かにグッとくるね!可愛いネー!」


「レッドにまっつー、その辺にしとこうよ。とりあえずはさ、ゴメスが言うのもなんだけどさ。」


ヤバい…空気が完全に“殺意”に変わっている。そりゃ、そうだろ。こんな状態で

呑気かましてる二人が異様なだけだ。予想通り、真っ赤な顔して怒る上村さんが


俺の視界の端でチラチラする。できれば、まっつーには、先ほどのテンションのまま、

静かにしておいてほしかった。


「…八つ裂きにする。」


低くつぶやく上村さん、その声を聞いて、事態がヤバい展開になってる事に今更気づく二人(遅ぇよ?)考えてる暇もなく、


上村さんが尖った爪(つけ爪じゃないよね?)をグワっと広げて、

こちらに飛びかかってきた…



 「女子供は撃ちたくねぇんだけどよ!」


銃器を持つと無駄に頼もしいレッド(本当に学生?説再び)がトカレフを抜き、素早く構えて2発放つ。乾いた銃声と共に初速455メートル/秒で発射される7.62ミリの弾丸が


上村さんに襲いかかる。だが、そこは当然、異能の成せる所業というもの。あっさりと2発が躱される。しかし、当のレッドはさして落胆した様子もない。


「当たったな。」


呟く直後に上村さんの頭上にあった電灯が落下し、彼女の頭を直撃する。わざと弾丸を外し、上の電灯を狙っている事を悟られぬようにレッドは足元へも弾丸を発射していた。


その跳弾(勿論、床の傾斜、角度と電灯までの距離を瞬時に計っての攻撃)で電灯を落とした訳だ。すかさずトドメの1発を放つレッド。


戦闘時においては一瞬のためらいもない。しかし、ここで俺達は改めて異能の力を実感する事になる。


「…おいおい、弾止められちゃ、こっちのやる事ないぜ?」


レッドがお手上げといった感じで低く笑う。俺達と上村さんの間、数メートルで弾丸は宙に浮いたまま、停止している。


彼女が手を翳すと、弾丸はカラコロと床に転がった。もう片方の手も前に突き出す上村さん。直後にレッド達がピーンと立ち尽くす。


「う、動かねぇ。何だこれ?」


「俺もだレッド…やはり、今日は気分がノラない日だ。最悪だ。」


「あたしが動けなくした…の…」


頭に刺さったガラス片(大丈夫?)を抜き取り、抜き取り、若干出血気味の上村さんが低く喋り出す。静かに、歩みを進めてくる彼女は低く、とても冷たい様子で言葉を続ける。


「あんた達のせいで、今日は一日最悪。月に1度のお楽しみディナーもこれで台無し。

安心して。男の血なんざ、吸うつもりはないわ。でも、たまには肉を引き裂いておかないと、切れ味がにぶるしね。だから、ちょうどいい。」


上村さんが自身の爪を舌なめずりする。赤い、小さな舌がチロチロするのを見て、レッドとまっつーが同時に


「やべ、何かエロカッコいい!」


とかほざいているが、もうちょっと状況を理解してほしい。いよいよ上村さんとの距離が

せばまる。そろそろかな、これは…


「バラバラになった肉片は飼ってる蝙蝠ちゃん達の餌にしてあげる。それとも頭の神経と若干の蘇生処置施して、自分の食われてる様でも見物させてあげようかしら?」


「そいつはいいね。それで頼むわ!!ツインテちゃん」


咆哮を上げた俺に、上村さんの目が大きく開かれ(ちょっと可愛い!)


一瞬の隙ができる。そのまま彼女に飛びつき(クソッ結構いい匂いがするぞ)


壁に押し付ける。勝負ありだ。「驚いた」と言った口調で彼女が口を開く。


「どうして…何故?動けるの?ゴメス。」


「悪いな、上村さん。俺にはあんたの術は聞かないんだよ。さっき気づいたんだけどな。とりあえずかかったフリしてここまで来た訳よ。出方を探るためにな。」


「ふっ…さすがに化け物は違うわ。見た目は伊達じゃないって事ね。」


「結構傷ついたぜ!まぁ、今はいい。とりま後ろで、ひがんじま(?)よくわからねぇが、みたいになってるあの子を解放しようや。その後で色々、今後の話をしていこう。じゃないとその細い首をポキリと折るぜ?コイツばっかしはマジだ。」


「何故?後ろの子は家庭のトラブルで家に帰れない子。こっちは住居を提供してあげてるの。家賃として血液を少しづつもらってるだけ、まぁ、たまに学校の子とかに勢いで手を出しちゃう事もあるけど、それも月1で我慢してる。


そこの彼女は家に戻っても地獄が待ってる。だから人形みたいに何も考えない事を望んだ。応えたのは私。ギブ&テイクの関係。彼女は今、幸せだった頃の夢を見続けてる。それも

永遠にね。良い事だと思わない?」


「そいつは嘘だ。あんたの力なら、そのトラブルを解決する事も出来た筈だろ?だが、しなかった。恰好の餌を確保するために、それを利用しただけだ。

決して良い関係とは言えない。」


「……なら…どうしろと?大人しく滅びるのを待てと?あらゆる非現実的な物が現実化してるっていうのに、世界は何も対応策を考えていない。


今に、こんな事は日常茶飯事に起きるわ。あんただって、そんな姿で、いつまで平穏な日常を過ごせると思ってるの?」


「永遠だ、お嬢さん。救いある世界のおかげでな。俺はだいぶ助けられてきた。遅くはない、方法を…」


「戯言は聞き飽きたよ。」


会話に夢中で一瞬油断した。上村さんの長い爪が俺の体を貫いていた。意識を一瞬失いかけるが、力を込めて奥まで突き上げられる爪の痛みに、再び意識を半ば強制的に呼び戻される。


「心臓は人間と同じ場所にあるんでしょ?もう少しで届くわ。さよなら、ゴメス。」


上村さんのどこか悲しみを讃えた表情と極力優しく務める声が徐々に遠のく。(悪い子じゃないんだがな…残念だ)そのまま今度こそ、完全に意識が途絶える予定の俺は…


やっぱり、ふいに聞こえた銃声によって意識が戻る。見れば、自身の肩を撃ち抜いたレッドが、こちらに銃を向けていた。隣で上村さんが驚きの声を上げる。


「じ、自分の肩を撃って、私の術を解いたって訳?馬鹿じゃないの?そんな事して、

私に勝てるとでも?意味ない行動とって満足?」


「俺の…畜生、痛ぇな、これ…緊急時とはいえ、ちゃんと狙うべきだったな…俺の人生に

おいて意味のない事はない。そのダチを救う事だけは例外だがね。


そいつは理屈がどうって訳では語れないもんだ…腐れ縁って奴でね…余計な話をしちまったな。今からそれを証明しよう。」


レッドはポケットから携帯を取り出し、同じく硬直しているまっつーの目の前に翳す。


「“吸血戦浄アンリミテッド・フリークス”続編政策決定。タイトル仮題は

“吸血戦浄アンリミテッド・フリークスR”前から言ってるだろ?


エンディングと次回予告終わった後に提供はどこどこのCМ後に一枚絵で映像ある時が

あるって。“また見てね”みたいな感じの奴だよ?全く、お前はいつも早とちりだよ。


まっつー!」


「レボリューショォォォン!!」


咆哮したまっつーの体が赤く光を放つ。そのまま歩み始める彼の周りには磁場のようなものが形成され、壁に床に、全てを焦がし始める。


さすがの上村さんも俺から爪を抜き、たじろいだように後方に飛びのく。

できれば俺も飛びのきたかったが、体が動かない。


「何なのあんた?てかあんた達!みんな揃ってイカれてるわよ!」


「褒め言葉だ。上村さん!さっきゴメスに言ってたな。安心しろ。世界が動かなくても、俺達が救う。俺達はクラガリ。ウチの学園にちなんでな。イカれた世界を守るゴミ屑共の集まりだぜ?」


そう言って銃をしまうレッド。全く…この男は本当にここぞという時になって説得力のあるような声を出しやがる。


上村さんと言えば、険しい顔をしてるが、先ほどの勢いはもうない。ため息一つをつき、

彼女が話し出す。


「以前に…何百年も前にウチのひいひいお祖母ちゃんに同じ事を言った奴がいたわ。

信頼してもいいの?あんた達を?」


「そいつは知らないが、俺達は確かだ。そうやってゴッサンもまっつーも、この俺も

暮らしてる。これ以上わかりやすい例はないだろ?」


俺達わかりやすいか?ふとよぎる疑問は、顔を上げた上村さんの笑顔で杞憂に終わった。


「何だか、おかしな人達…考えてるこっちが馬鹿みたい。お腹すいた。何かない?もちろん血液以外で。」


まっつーとレッドに安堵の表情が浮かぶ。すかさず懐から何かを取り出すレッド。

本当に用意が良すぎる。


「再びの質問、ギモーヴの感触は何に似ている?」


「ないぞー☆(だから!即答かよ!?上村さん)」…


 その後の事を一応報告しておくと、手打ちとなった俺達はひがんじまな少女を無事、

家に送り届け(彼女の、家のトラブルは“自称塾通いの柴崎”が電話対応のみで

全てを解決した)事なきを得た。


残る上村さんの食料事情は、まっつーの身内、てか、ねーちゃんが血液の増加する特異体質(最初に言えよ!まっつー自身は、その血液を、高熱に滾らせる能力がある)らしく、

それ聞いた上村さんが


「そのお姉ー様どこにいるの?」


と興味深々で問題なく解決しそうな流れだ。結構トントン拍子だったが、何とかなるもんだ。ただ、誰も行動をしなかっただけ…誰かが動きを起こせば、周りも少なからずそれに対し、

調整し、影響を与え、一つの流れを形成していく。これは俺の経験でもある。


レッドと俺と言えば、日頃の悪運が幸をなし、次の日には、ほぼ傷が完治した状態で

学校に登校していた。勿論、元気な上村さんも血ぃ吸われた朝顔さんの姿も見えている。


全部、問題なし。クールに終わった。さて、今日も穏やかな日常が始まろうとしている。そう思った俺の机にレッドが(一応、片手を吊っている。)飛び込んできて、


“おはよう!”も、そこそこに声を張り上げる。


「聞いてくれよ!ゴッサン、やーさんの野郎が昨日、外で幼稚園児追いかけてたら

(それは確実に犯罪)空飛ぶ女の子に怪光線撃たれて、全身火傷で休みだってよ!」


穏やかな日常が壊れ、クラガリの出番がやってくる、まぁこんな暗がりな日々も悪くない。いや悪くないか…


「本当に?」


ふと聞こえてきた疑問にため息を返し、俺はレッドの次の言葉を待った…(終わり)

 

 

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「暗がりも悪くないぜ!?」 低迷アクション @0516001a

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