第45話 番外編② 小石川とJKリフレ

※この話は、小石川がJKリフレでバイトをしている設定になっています。

 本編では、もちろん働いていません。

 時系列的には、4話と5話の間ぐらいになります。

 

 「……えっと、なんで」

 「それは……こっちのセリフです」


 たまたま入ったJKリフレ店で案内された個室。

 そこには、制服姿の小石川がいた。

 半袖の白いシャツに黄色のリボン、ピンク色のミニスカートから、太ももがほとんど見えるような恰好だった。

 「……こんなところによく来るなんて本当にエロエロ先輩ですね」

 小石川は腕で身体を隠しながら、じろっと俺をにらむ。

 「いや、その、しょっちゅう来るとかじゃなくて、その、たまたまだ!」

 俺は必死に弁明する。

 本当に、この手の店に来たのは初めてだったのだ。

 ただ、最近、いろいろなことがありすぎて、いろいろ溜まったものを発散したほうがいいと思ったのは事実である。

 「えー。あやしー。先輩エロエロだからなー。まあ、ここはエロ禁止のお店ですけど」

 「……え。エロ禁止なの?」

 「やっぱり、そういう目的で!語るに落ちるとはこのことです!」

 ……くっ。何も言い返せない!

 しかし、俺がこういう店に来た原因の大部分は、小石川なのである。

 「お前のせいだからな!」

 「……ちょっ。何、人のせいにしてるんですか!意味わかんないですよ」

 あのラブホテルで一夜を過ごしてからというもの、今まで眠っていた性欲が一気に湧き上がってしまったのだ。

 このままでは、小石川に何かするんじゃないのか、と恐怖を覚えて、店に入ると小石川がいるという。

 ……なに、この世界、小石川しか女の子いないの?という状態である。

 「……なんか、最近、ラブホテルとか行って、そういうスイッチが入ったっていうか。なんか、お前のことも、そういう目で見ちゃうっていうか。そういうのヤバいだろ。だから、こういう店に行って、って思ったら……。お前、いるし。なんなんだよ!っていう」

 俺は正直に話した。

 我ながらキモかった。

 小石川は「うーん」と悩んでから、「えっと、つまり、私とエロいことしちゃったから、もっと、私とエロいことしたいけど、それはまずいから、ここに来てエロいことしに来たってことですか?」と、まさにその通りのことを言った。


 「そう、そうだよ!悪いかよ!だって、まずいだろ!会社の一回りも年下の女の子をそんな目で見るなんて。しかも、お前は、俺の後輩だし」

俺は逆ギレした。

うーん。もしかして、セクハラで訴えられる?

 「へへっ。エロい目で私を見て、どうする気だったんですか?」

 小石川はニヤニヤしながら、俺を見る。

 「ど、どうもしねえよ。どうもしないために来たんだから。だ、大体、お前こそ、こんなとこで何してんだよ!」

 「バイトですよ。会社の給料じゃいろいろ足りないじゃないですから」

 それは、お前の金遣いの問題なのでは、とは言えなかった。

 「……それにしたって、他にもあるだろ、バイトなんて」

「わりがいいんですよー。楽だし。ほら、私まだ18ですし(笑)JKみたいなもんじゃないですか。あ、ちなみに、エロは駄目なんですよ、このお店。先輩は期待してたかもしれませんけど。マッサージも肩をもむのがマックスですから」

 「え!?マジで」

 ……リフレってそんなんなの?

 情弱だから知らなかったが、それじゃあ、ただのボッタクリじゃないか!

 しかし、昨今の世間の監視の目、警察の動きを鑑みれば、この店の対応は、極めて真っ当なのかもしれない。

 「ほんとうですよ。ちゃんと、書いてありますよ」

 小石川が指さす「店内規約」と書かれた長文は、とてつもなく小さい文字で書かれていて、当店は「肩をもむ以上のサービスはしておりません」と書かれていた。

 肩をもむ以上のサービスをしなかったら、一体、後はなにしてくれるんだよ……。

 「期待させておいて……。しかも20分かよ!きたねえ。これで、1万円もとるのかよ」

 サラリーマンの収入を何だと思っているのだ!

 「若い子に肩もんでもらえるだけで、喜ぶオジさんがたくさんいるんですよ。先輩も、ありがたーく、肩もまれてください」

 小石川は手をわきわきさせながら、楽しそうに言った。

 「まあ、もう金はらっちまったからな……。じゃ、肩もんでくれ」

俺は観念して、小石川に背を向ける。

 「はーい。先輩の肩もみごたえなさそうっすね(笑)」

 「よく言われるわ。肩ってあんまこらないんだよな」

 小石川は、ゆっくりと弱い力で肩をもんでくれた。

 「じゃあ、そんなに肩もんだら揉み返しがきちゃったりしちゃうかもですね」

 「うーん。そうかもな。ちょっと、腰とかやってくんね?そっちのがこってるかも」

 俺は姿勢が悪いのか、腰の方が凝りやすかった。

 正直、夜寝るだけで、腰が痛くなるほどである。

 「はい、じゃあオプション追加で。腰は1万円追加でーす」

 「たかっ!マジか。じゃあいいよ」

 「うそです。マックス肩までって言ったじゃないですか。でも、先輩は特別にやってあげますよ。日頃の感謝の気持ちってやつで」

 たまには、いいことを言う後輩である。

 俺は、お言葉に甘えて、うつぶせになった。

 小石川は、俺に背中に馬乗りになる。

 そうされると、いろいろな感触が気になるんだけど。

 「何、おしり柔らかいなあとかエロいこと考えてんですか」

 「か、考えてないんだからね!?」

 すいません、考えてます。

 小石川は「まったくエロい先輩だなあ」と、腰を慣れた手つきで揉み始めた。

 適切な力加減が、痛気持ちよく、とてつもなく気持ちよかった。

 「わりいな。つうか、お前、めっちゃ、うまいな。マッサージ」

 俺は今にも、意識が遠のきそうになりながら言う。

 「子どものころから、おばあちゃんとかおじいちゃんの肩とか腰をもんでたんで。あ、先輩、背中はめっちゃこってますね。姿勢が悪いんですよ。猫背だし」

 「たしかに、姿勢は悪いな。自覚はあるけど直せないんだよな。あー。気持ちいい。なんか、寝そうだ」

 日頃の疲れが一気にとれていくような気がした。

 「寝てもいいですよー。背中がこってるってことは、足もよく痛くなったりしませんか?」

 「足?ああ、なんか、ちょっと違和感あったりするかもな」

 確かに、腰だけではなく足に力が入らないと感じることはよくあった。

 「血の循環が悪くなってるんですよ。ほら、太ももとか特に」

 小石川は腰から太ももに手を移動させる。

 「ちょっ。そこはいいって」

 くすぐったくて、俺はじたばたする。

 「ダメですよ。ここもやんないと。血流よくなんないですよ」

 「ちょっと、くすぐったいって」

 「我慢してください!ちょっと、ズボンおろしてください。やりづらいんで」

 ズボン?

 いやいや、それはさすがにおかしいだろ。

 「いや、いいって、ズボンごしで」

 「ダメです。ちゃんと施術できないので」

 施術ってなんだよ。

 いつから、そんな本格的なマッサージになっていたんだ。

 「施術って……。ズボンごしでいいって。ほんと。そんなちゃんとしなくて」

 「言いますよ」

 「え?」

 「いろいろ」

 「いろいろって、なんだよ」

 「いろいろは、いろいろです」

 ……俺は背中から冷や汗が出る。

 いろいろ?思い当たる節が、多すぎる。

 頼むから、具体的に言ってほしい。

 「わかったよ。睨むなよ。脱ぐよ。脱げばいいんだろ」

 と、俺は観念してズボンを脱ぎ始める。

 「そうです。脱いでください。脱げばいいのです。ふふふ」

 「なんか、目が怖いよ。なんか、タオルとか上に敷いてくれよな」

 さすがに直に触れられるのはまずい。

 そんなことをされたら、のたうち回る可能性すらある。

 「当り前じゃないですか。直に触るの禁止なんで」

 「……じゃあ、いいけど」

 「じゃあ、まずは、弱めに」

 「うあっ」

 「気持ちいいですか?下から上、上から下に押し上げます。これを連続することにより、血流がよくなります」

 「気持ちいい……。小石川、天才だな」

 「ふふっ。だんだん本気になってきました。やっぱり、これ邪魔です」

 ばっとタオルを小石川は投げ捨てた。

 直に触るの禁止、とは?

 「ちょっ。タオルとんなよ。恥ずかしいだろ」

 「先輩には私特性のオイルマッサージをしてもらうことに、今決めました」

 「なんだよ、オイルマッサージって。つうか、ここ、そういうのないんじゃないのかよ」

 「表向きにはね」

 小石川は悪い声でそう言った。

 「きたねえ。きたねえよ。大人社会」

 ……これが、裏オプション、という奴なのだろうか。

 「全部脱いでください」

 「やだっ!絶対にやだ!」

 なんか、こういうマッサージ師にいろいろやられちゃうエッチなビデオを思い出した。

 立場は男女逆のものだったが。

 「いいのかなぁ。言ってもいいのかなっ。いろいろ言ってもいいのかなっ」

 リズムにのって、小石川は俺をおどす。

 そんな脅しには屈しない!

 俺は、社会人として、人間として、尊厳を保ったまま死んでやる!

 ……しかし、今は、その時ではない、のかもしれない。

 「くそっ。全部って。パンツも?」

 俺は恐る恐る聞く。

 「当然です。しかし、今ならこの紙パンツを貸してあげましょう」

 まるで、ジャパネットたかだのように小石川は紙パンツを出した。

 いや、それ今までどこにあったんだよ。

 しかし、背に腹はかえられない。

 後輩に全裸を見られるよりはよっぽどいい。


 「ありがとう!!」

 俺は涙ながらに感謝する。

 「ちょろい……!!」

 小石川は小声で言った。

 「なんか言った?」

 「いいえー。じゃ、後ろ向いてるんで、ちゃちゃっと着替えてください」

 「お、おう」


 「じゃあ、オイルいきまーす」

 紙パンツをはいた俺の背中に冷たい固形状の液体がゆっくりと広がっていった。

 「うあ、なんかドロドロしたもんが」

 「オイルですからね。これで先輩もめっちゃいい匂いになりますよ」

 「大丈夫か?なんか、匂いとれるよね?」

 ……浮気は匂いでバレるという。

 女性の方が、男よりも匂いに敏感だからだそうだ。

 ラブホテル特有の匂いの強いシャンプーやリンスなど、もっての他である。

 世の浮気夫が、家に帰った瞬間に、風呂場に行くのはそのためである!(※個人の見解です)

 「帰っても誰もいないくせに何怖がってるんですか?」

 小石川のその言葉は、全く悪気のないものだった。

 そう、浮気がバレることなんて、俺は全く心配しなくていいのである。

 「まあ、な……」

 「……なんか、ごめんなさい。無神経に」

 「いいって。本当のことだ。なんか、不思議だよ」

 「何が、ですか?」

 「いや、もう、3年も一人でいるんだなって。そんなこと、想像もできなかった。一緒にいるときは」

 ずっと、このまま、時間がゆっくりと進んでいき、一緒の時間を過ごせると思って疑わなかったのだ。


 「……なんで、ですか」

 小石川は、少し怒ったように言った。

 「え?」

 小石川は、オイルごしにぬるぬると俺の背中全体をマッサージした。

より、なめらかに動く小石川の巧みな手さばきに、俺は意識を刈り取られそうになる。

 「先輩は、先輩は、なんで、いつだって、ずっと、奥さんのことばっかり」

 「……それは」 

 ……まずい。気持ちよすぎる。

 「私といるときも、ずっと、どっか遠くを見てる」

 「……」

 ……意識が遠のく。

 「忘れてください」

 ……。

 「私といるときは、私といるときだけは、奥さんのこと、忘れてくださいよっ」

びりびりっという音が聞こえる。

 ……あれ?

 「あの、おまっ。ちょっと激しいっていうか」

 「なんですか!?」

 「紙パンツ、破いてるんだけど……」

 「きゃっ。変態っ!」

 「なんでだよっ!!」


  何が悲しくて、後輩の前で尻を丸出しにせにゃならんのだ。

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