第2話恒例行事

「え、合格?その手は熱くないんですか?なんで立つことができるんですか!?京香さんまで!」


 烈花は足を下ろしていた。そのことに気づいたアラタは慌てて教える。


「烈花!それ危ないから!炎燃え移っちゃうから!課長の書類とか燃えちゃうから!」


 烈花は慌てて足に出していた炎を消す。


 アラタは烈花の手から時限爆弾みたいなただの玩具を取り上げ、こうつげた。


「面接合格。これで君も晴れて異能特務隊第四課の仲間だ!」


「・・・・・・どういうことです?」


「この一連の事件は全て、僕達が君のために作った面接だ。君がもし、爆弾魔に出会い、これから仲間になるだけの、まだ仲間じゃない他人をどのように助けるかを見させてもらった。でもまさか飛び降りようとするなんてイカれてるよ君」


 クククと、アラタは笑いを頑張って堪える。


「は、はぁ」


 烈花はまだ事態をよく飲み込めていないようである。


「とりあえず、これは僕達の勝手な芝居で、君は合格したんだ。おめでとう」


 烈花はそれを聞き、力が抜けたようにその場にへたり込む。


「よ、よかったぁ。皆死んでなくて本当によかったぁ」


 烈花の目には僅かに涙が滲んでいる。


「な、なんていい子なんだ」


「あんたより断然いい子だね」


「それは言わなくていいですよね!?」


「課長お疲れ様でした犯人役」


 机で押し倒されていた課長が立ち上がって机や散らかった偽物の資料を拾う。


「中々勇気と根性がある少年だな」


「か、課長!?課長ってここで一番偉い!?」


「まあそういうことになるな。ここ第四課の課長、桜井誠だ。よろしく頼む」


「こ、こ、こちらこそ!」


 烈花は手を震えさせながら握手をした。


 桜井誠、異能特務隊を立ち上げた設立者の一人であり、現隊員でもある。


「課長もなかなか演技派でしたね。まさかここまで小物が似合うとは思いませんでしたよ」


 アラタは笑いをこらえるので必死である。


「課長権限で路頭に迷わせるぞ?」


「ぜひお願いしますよ」


「京香さん!?何言ってるの?僕まだ未成年だよ?一応すごい異能力者なんだよ?」


 烈花はキョロキョロと周りを見渡している。


「ん?どうしたんだい烈花君?」


「さっきのあの女の子も社員なんですよね?挨拶したいなぁて」


「あー、夕璃ゆうりさんね。あの人ならもう来るよ」


「え?」


 アラタがそう言った30秒後に、夕璃は現れた。


「皆さんのコーヒーを入れてきました。どうぞ課長、ブラックです」


「ありがとう」


「京香さん、カフェオレです」


「新がやればいいのに、わざわざごめんね?」


「いえいえ!私が好きでやっているだけですよ!」


 京香が夕璃の頭をなでると、夕璃は気持ちよさそうに目を細める。


「あ、新君はモンスターです!」


 夕璃がモンスターのちび缶をアラタに渡す。


「いやーこれだよねやっぱ。モンスターで始まりモンスターで終わる一日だよねぇ」


「あんただけ高い飲み物飲みすぎよ」


「このぐらい税金からむしり取ってもいいでしょう?僕もかなり払ってるんですから!」


「まあまあ、あ、烈花君はどれがいいかなぁ?コーヒー?紅茶?それとも何かのジュース?」


「ええっと、じゃあオレンジジュースで」


 烈花は夕璃が用意してきた飲み物からオレンジジュースを選択し、チビチビ飲み始める。


 この仕事は普通一番下の人間がやるのが普通なのだが、夕璃が率先してやるおかげで誰もやっていない。


「よし、烈花はこれからちょっと僕に付き合ってくれ」


「?わかりました!」


 烈花は一度首を傾げたが直ぐに了承した。


「京香さんももちろん来てね。あと夕璃さんも」


 アラタはニヤニヤしながら京香と夕璃に話を振った。


「新君、もしかして」


「夕璃さん、もう準備始めちゃって。僕は烈花君にスーツ渡すから」


 夕璃は顔を青くしてガタガタ震え始める。


「や、やりたくないんだけどダメぇ?」


「できればやりたいんですよね。夕璃さんも最近サボってるでしょ?」


「で、でもぉ」


 ちらりと京香の方を向き助けを求める。


 だが、京香に助けを求めても無駄なことをアラタは知っている。


「?どうしたの?いいじゃない!久しぶりに新の本気と戦えるかもしれないし、私は嬉しいよ?」


 京香は普段そこまで戦闘狂ではないのだが、鍛えることや強くなることは大好きなので、今回のことについて夕璃に京香は全く味方しない。


「それが嫌なんですよぉお!お願いしますやめさせてくださいいいい!」


「え、戦うんですか新さんと!?」


「実際に烈花君の力を見てみたくてね。じゃあまずはスーツ渡すからついてきて」


 アラタは夕璃の懇願を無視し、自分のデスクに向かう。


 デスクの引き出しは綺麗に整頓されていて、スーツが入った袋を取り出す。


「何も入ってないでしょ?こんな感じであんまり書類とかさわったりしないんよね、僕は」


「確かに新君は触らないね」


「ありがと課長!」


「お前の分までやっている俺の身になれ!」


「だって課長、僕に賭けで負けるのが悪いんですよ」


「確かにそうだが!少しはやってくれるのが年下というものだろう!?」


「うわ、大人気ない発言だなぁ。まあいいや、烈花君、これが君のスーツだ。一応三着用意したけど着まわせるかな?これ洗ってもシワとかつかないし全然洗濯機に突っ込んでいいやつだから」


「ありがとうございます!すごいスーツですね」


「じゃ、それ着て地下に行こうか」


「これから戦うんですよね?」


 烈花が不思議に思っていることはアラタにもわかる。アラタも昔同じことを思っていたからだ。


「それがここの基本の戦闘服だよ。気にせず着ちゃって。あ、ワイシャツもその中にあるから。じゃあ準備をしよっか」


 アラタと烈花は更衣室に行って着替える。


「烈花君、すごい筋肉だね。相当筋トレしている」


 小さいからだからは想像できない引き締まった筋肉と、火傷の数々。


「そ、そうですか?そういう新さんも引き締まってるじゃないですか」


「まあ僕は京香さんに引っ張られて泣く泣くね」


 アラタはあえて烈花の火傷については触れなかった。


 その火傷はアラタの予想では、自分の炎による火傷。


 自分を傷つけるほどの鍛錬、もしかすれば小さい頃に制御出来ずに付いたものかもしれない。それをわざわざ聞くほど、アラタは無粋ではなかった。


「新さん、指輪は外さないんですか?」


 烈花は戦いでゆびわを傷つけるかもしれないと思い、アラタを心配したのだろう。


「気にしなくていい。これは僕の武器だから」


 それを聞き、烈花はそれ以上それが何か聞かなかった。


 着替え終えた二人は、エレベーターに乗り、地下一階に行く。


 そこは縦横が長く広すぎるワンフロアが、ただ何もなく無機質な状態で存在していた。そこにはすでに、夕璃と京香も一緒にいた。


「なんですか、ここ」


 烈花は周りを見渡して思わず漏らしたようだ。


「ここは僕達が模擬戦をするフロアだよ。異能を思いっきり使えるようにってことなんだけど、僕が本気出すと壊れるからって意味をこめて夕璃さんを呼んでいるんだ。まあそれよりも大事な理由があるんだけどさ」


「その大事な理由ってのは一体なんですか?」


「君達をためだよ」


「治療系の能力なんですか?」


「治療系ではないね。なんていうか、回復じゃなくて修復かな。まあやってもらえばわかるよ。じゃあ二人ともやろうか!」


「わ、わかりました!」


 これから戦うということがわかったせいか、声が微妙に上ずった。


「今日こそはボコボコにさせてもらうよ?」


 京香は体のストレッチをしながらアラタにリベンジを告げる。


「無理なことはわかってるでしょ?僕に勝てるわけがない。とりあえず、どこからでもかかってきていいよ?制限時間は三十分といこうか」


 アラタは余裕を見せつけるようにポケットに手を入れてそう言った。


「え?もう開始ですか?」


「もう開始だよ!」


 京香は地面を抉るほど蹴りだし、アラタに殴りかかる。


「危ないなぁ」


 アラタは京香の動き出しをあらかじめ見抜いて横向きになってかわす。


「京香さん前より速くなったんじゃない?」


「当たり前でしょ」


「これは僕も本気を見せなきゃね」


 京香が頭に当たれば吹き飛ぶくらいの蹴りが、アラタに近づくにつれて遅くなっていく。


「っ!?もう使うの!?」


「烈花君がやる気を出さないから、京香さんやられてもらうよ」


 京香はアラタが自分に近づくのを悟り、全力で距離を取った。


 だがアラタは一瞬で突き放された距離を、アラタもまた一瞬で詰める。


 そして京香の腹に向けて拳を放つ。


 京香の腕が腹と拳の間に滑り込むが、京香は殴られた瞬間に後方に吹き飛ばされる。


「な、なんですかそれ」


 烈花は目を見開いてそう呟く。


 アラタは指を鳴らして烈花を吹き飛ばす。


「がはっ!」


「これが僕の異能、“虚構世界”だ」

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異能特務隊〜災厄の異能力者 @kudryafuka

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