第5話「これから……」
「……アルファ様とリーサの関係性も分かったわ。ところでアルファ様、一つ伺っても宜しいでしょうか?」
「何じゃ?」
互いの認知情報を改める為に開かれたような茶会を終え、リーサが帰路へとついた頃にサーシャはアルファに問い掛ける。改まった調子で咳払いをするサーシャを、アルファは首を傾げて言葉を待った。
「――アルファ様は、彼女に会う為に神界とやらから降りて来たのですよね?」
「そうじゃよ?流石に異空間越しとなるのでな。苦労はしたが……それがどうかしたのか?」
「本日中に帰る、様子では無いですよね?その荷物は」
「……そうじゃなぁ。退屈凌ぎがてら、この周辺を散策しようと思ったのじゃがなぁ。いやはや荷物が多かったようでな?正直に言って面倒な事になった」
「でしょうね。グレゴール?」
そんなアルファの言葉を聞いたサーシャは、すぐ傍で待機していたグレゴールへと言葉を投げる。グレゴールは一礼をして、サーシャの指示に耳を傾ける。
「……はい、お嬢様」
「アルファ様の荷物を、私たちが今暮らしている屋敷の空き部屋へ運んで?」
「畏まりました。東と西、どちら側のお部屋に致しましょうか?」
「西側には屋敷の使用人の部屋があるでしょう?東側で、私の部屋に近い場所にして頂戴」
「畏まりました。……そういう事ですので、アルファ様?お荷物を失礼致します」
グレゴールはサーシャから離れ、向かいの椅子に座るアルファへ一言述べながら荷物へと手を伸ばす。ぽかんとした様子のアルファだったが、そんな様子をすぐに切り替えさせるようにしてサーシャは言った。
「――長くこの世界に滞在なさるのでしたら、拠点のような待機場所が必要だと思います。ですから、私の屋敷をお使い下さい」
「良いのか?妾がお主の屋敷に邪魔をして」
「邪魔だなんてとんでもないです。私が暮らしている屋敷には、私と使用人しか居ません。それに私自身、アルファ様には感謝をしております。その恩返しと思って、受け取って下さいませんか?」
「そういう事なら、まぁ構わないが……本当に良いのか?妾の身勝手な事情をお主にも背負わせる事になるかもしれんぞ?」
「その時はその時。私もアルファ様が何をなさるのか、正直気になる部分もあるのです。それに私の実力は、もう既にご存知のはずでしょう?アルファ様のお邪魔はしないつもりですし、足を引っ張る気は毛頭御座いませんよ」
「……はぁ、妾の負けじゃな。その言葉に素直に甘えるとしよう。正直に言えば、宿には少々当てが無くてな。この街の外れにある森の中で、野宿でもしようかと思ってたぐらいなのじゃ。助かるぞ、サーシャよ」
「あ、いえ、とんでもありません///」
アルファの素直な感謝の言葉を聞いたサーシャは、少し照れた様子で呟くように返事をした。そんな珍しい反応を見せたサーシャへ笑みを浮かべ、アルファはカップに注がれていた紅茶を口に運ぶ。
そんな微笑ましい視線をアルファから浴びたサーシャは、照れ臭さを誤魔化すように再び紅茶を口に運んだ。やがてグレゴールが、アルファの荷物を運び終えた頃である。家へと帰路を歩いていたリーサはというと――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……まさか思考を読むのではなく、未来を視ていたなんて……予想外です」
そんな一言を呟き、夜空を眺めていた。外はすっかりと日が沈んだ様子で、リーサは星空の下でゆっくりと歩を進める。心地良い風が頬を撫でる中で、身体を温かくしていたはずの紅茶の熱が徐々に冷めていく。
同時に目が冴えた様子のリーサは、神アルファから授かった首飾りの指輪へと視線を向ける。指輪のような装飾品を指に嵌める事は勿論無く、今までもそんな機会は無かったリーサだ。
物珍しい物を眺める好奇心で胸を躍らせつつ、指輪を見るその視線は感謝の念が込められていた。指輪として本来の遣い方をする予定は無いが、それでもお守りとして持っていようとリーサは思っている。
「……(私には、勿体無い)」
そう思うのだが、あの場で受け取らないのも神アルファに失礼だと感じた。感じてしまったからこそ、断れずになぁなぁのまま受け取ってしまった節もあった。だがしかし、それでも授かった事自体には感謝の念がある。
そして授かったならば、授かったなりの責任が伴う。リーサは、指輪を少し優しく片手で包み、その場で足を止めた。まるで無数に拡がるこの星空へ、祈りでも捧げているように。
「(神様?私はこれから、後悔をしないように過ごします。その為には、もしかすれば間違った道を進んでしまうかもしれません。困難が立ちはだかる可能性だってあるし、私の心が折れそうになる可能性だってあります。でも、あの日、あの時、神様がくれた一言を胸に、私はこれからも頑張って生き続けて行こうと思っております。ですからどうか、私の事を見ていて下さい)」
そんな祈りを捧げながら、リーサは口角を上げて笑みを浮かべた。見上げた星空の中で、そんな祈りに反応を示すようにして星が流れる。祈りが届いたのだろうと思ったリーサは、やがてまた帰路を歩き出した。
これから続く未来へ向かう為に、彼女は一歩ずつ前へ進む。
――お主の次の人生に、絶望の二文字は無い――
もし絶望が襲い掛かってきてしまっても、あの頃のように諦めたりはしないだろう。それは何故か、簡単な話である。
「……っ、リーサお嬢様、お帰りなさいませ」
何故なら今は、帰りたいと思える場所があるのだから。
「ただいま」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「そういえばアルファ様、リーサに渡していた指輪って何なのですか?」
「……ククク、内緒じゃ」
つづく。
魔法使いより、剣士が好きです!【まほけん】 三城 谷 @mikiya6418
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