第4話「神様からの贈り物」

 未来視の魔眼を所持するサーシャさんは、過去に私と会っていると言った。だがそれは、この世界ではないと言う。どういう意味かと問い掛けたところ、サーシャさんは夢の中で出会ったと言った。

 でもそれは、現実の世界でっていう話ではない。サーシャさんの言っている事を聞いていると、まるでパラレルワールドのような世界での話のように聞こえた。夢を通して視た未来の通りには行かず、別の条件を達したかのように違う出会い方をしたらしいのだという。

 

 「……あの時は、勝敗は付いてなかったわね」

 「私も足を捻ってなかった感じですか?」

 「ええ、そうよ」

 

 ついでに言えば、私とサーシャさんが出会ったのは学園へ入学して数日後らしい。そしてそこには、妹のミレイナが途中から会話に参加しているという話だ。別に信じない訳では無いが、ミレイナとも出会っている世界線が会ったという事だろう。

 

 「未来視で視た未来が、変わるっていう事があるんですか?神様」


 サーシャさんがグレゴールさんから差し出された紅茶に口を付けた時、会話が途切れたので、私は隣で欠伸をしている神様に問い掛ける事にした。

 

 「ふわぁ~……あるぞ、普通に。未来はそれぞれ人間が進む道のようなものじゃ。その道に途中で行動を起こせば、辿り着く到着地点が変化するのは当然じゃよ」

 「なるほど。ふむ……という事は、サーシャさんが未来になるはずだった夢を視た後に、その未来に繋がる為に必要な何かをしなかったとかで影響が出るんですね」

 「それはそうじゃ。未来は自分が歩んで来た道の結果と同じじゃ。努力をした者には結果が良くなり、努力を怠った者には悪い結果を生む。まぁ努力をしたところで、変わる事が出来ない未来があるのも稀じゃがな」


 眠そうな様子の神様の言葉は、神様だけに信憑性のある事だった。だらだらとグレゴールさんが用意した茶菓子を食べている様子を見れば、何も知らない人からすれば神様だとは誰も思わないだろう。

 しかし神様である以上、言う事には真面目な答えを出してくれている。個人的には、誤魔化さない様子が好印象である。まぁ、上から言える力は私には無いが……


 「努力、ですか」

 「お主は努力はしていたが、報われなかった運命じゃったな。理沙よ」

 「そうですね。神様の言っていた事を考えると、私の未来は産まれた時から決まっていたという事なのでしょうね。なんだか、聞いて吹っ切れた感覚がします」

 「そうか。じゃがあまり深く考える必要は無いのじゃぞ?お主はもう解放されておるのじゃから、無理する必要は無いぞ」

 「理解しています、大丈夫です」


 紅茶を飲みながら首を傾げるサーシャさんを置いてけぼりにしている中、私は咳払いをして話を戻す事にした。微かに疑問が浮かんでいるかもしれないが、サーシャさんの反応を待たずに私は続けて言った。


 「――確かに過去の事を思い出す時は、今でも度々あります。けれど、それは過去の物であって、現在いまの物ではありません。私は前へ進みます。もう後悔しない為に」

 「…………そうか。ならばもう、妾が何か言う必要は無いようじゃな」


 小さく微笑みながら神様は呟き、安堵してくれているような表情を浮かべてくれた。私には、その反応だけで救われる感覚がある。それにこれ以上、神様の世話になる訳にはいかない。

 

 「あの、ちょっと良いでしょうか?アルファ様」

 「何じゃ?」


 そんな事を考えていたら、自分の頭に合わせるように手を低く挙げ、サーシャさんが会話に介入した。もう既に会話は終わりそうだったので、折を見て入ったのだろう。タイミングを計るには、会話の流れを掴む必要があるから沈黙に徹していたのかもしれない。


 「リーサがこの世界で産まれる前、つまりは別の世界から魂をこの世界に運んだ事はアルファ様から聞き及んでいます。ですが、彼女が居た世界とやらには影響は無いのですか?例えば、彼女の親族とかご友人には……」

 「サーシャさん、安心して下さい。私はこの世界で輪廻転生を神様に施して頂いた際、既に私が居た世界では死に至っています。もう既に存在が終わりを迎え、声も発す事の無い屍となっています。ですから、この転生は新たな人生という事です」

 「……という事は、リーサは一度死んでいて、そして生まれ変わった。なるほど。確かにそれならば、神であるアルファ様にしか出来ない芸当ね。えっと、じゃあリーサ?貴女は一体、いくつなのかしら?」


 何を今更な事を聞いているのだろうか。だがしかし、サーシャさんが聞いているのはこの世界の年齢ではなく、生きていた頃を合わせた年齢の事を指している。それを把握していた私は、答えて良いのかと神様に視線を送る。

 神様は仕方無いと言わんばかりに頷き、答えても良いという許可を出すように首を縦に振ってくれた。それを見届けた私は両手で指を立て――


 「大体、このぐらいでしょうか」

 「に、二倍なのね。私の情報網で、貴女と結婚出来る相手を探した方が良い?」

 「いえいえ、大丈夫ですから!変な気の遣い方はしないで下さい!?」


 そんな会話をしている間だった。神様が何やら自分の荷物を漁り、何かを探しているという背中を見つけた。いつの間にか椅子から腰を上げ、ガサゴソと荷物に手を入れながら『う~』と唸っている。

 しばらくして唸り声が止まり、トコトコと私の横へとやって来た。そして手を差し出しながら、神様は優しい聖母のような表情を浮かべて言うのであった。


 「忘れる所だった。理沙よ、お主に入学祝いがあるのじゃ。――ちと屈め」


 その言葉に従った私は、椅子から立って跪くように屈む。すると、首元をスルリと何かが通される感覚が襲ってきた。驚きながら反射的に閉じた目を開くと、自分の首元には一つの指輪が飾られていた。

 それをネックレスのように首から下げられるように作られ、私はそれに気付くと神様は一歩下がって口角を上げた。


 「妾からの贈り物じゃ。その指輪は、これからお主を助けてくれる特別な力を付与がしてある。神である妾が人間に物を授けるには、それなりの質で無くては消滅してしまうのじゃ。じゃがこれは消さずに済んだのでな、……貰ってくれるか?理沙よ」

 「っ……はい!大事にします!」


 キラリと輝くその指輪には、綺麗な赤い宝石が埋められていた――。

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