第3話「説明するわ」
「……」
「おい理沙よ、何か一言ぐらいは言ってくれないか?」
「いえ、神様。私は何も聞いてないので、変に意識をしなくて結構ですよ?」
「やたらと気を回すでないわ!!妾が可笑しな奴だと思われるじゃろうがっ」
魔法陣の間に生じた異空間から現れた彼女は、くわっという勢いを乗せて目を見開いて言った。『来ちゃった』などと言っていたが、神様がしている事は意外と暇なのだろうか。
そんな事を思っていると、隣に居たサーシャさんがお辞儀をしながら挨拶を口にした。
「これはこれはアルファ様。この度に何用を持って、この人間界に?数日前には、様子見で顔だけ出しに来た御様子ですが……何か気になる事でもあるのですか?」
「堅苦しい挨拶は止せ、サーシャよ。それにお主の事じゃから、未来視の魔眼で妾が来る事は分かっていたのではないか?」
「昨日までであれば未来視を使いましたが、今は酷使をする訳にはいかないと制限している最中ですので」
「なるほどの。妾の忠告を守っているようで、安心したぞ。ところでサーシャよ、人間用の衣服を持っていたりはせぬか?」
「衣服、で御座いますか?」
「そうじゃ。ちと妾にも着させてくれぬか?このままの姿であれば、目立つじゃろうしな」
確かに神々しいオーラを放っている神様を隠す為には、少し厚い服が好ましいとは思う。だがしかし、私は神様の容姿を眺めながら言うのである。
「神様、本当に何しに来たんですか?観光ですか?」
「……お主、妾が人間界を観光すると思うか?妾が人間界を楽しみにしていると?遠足気分で来ていると言いたいのか?お主は」
「……どう見たってそう見えますよ」
うん、遠足気分で来たのかと勘違いしてしまいそうだ。何故なら、彼女が来た足元には、枕や座布団、ティーセットなどが足元に置いてあった。私がそれを見ていると、彼女は慌てた様子で鞄にしまい始めた。
「……ふぅ。良いかお主ら、お主らは何も見ていない。決して妾が暇で退屈だったから、ここに来た訳では無いのじゃぞ?」
「「……」」
私とサーシャさんは顔を見合わせて、溜息混じりに苦笑を互いに浮かべる。そんな私たちの様子を見ていた彼女は、腕を組んで肩を竦めていた。呆れた様子にも見えたが、私たちからすれば呆れる対象は貴女だと言いたい。
しかし言いたい事を押さえたまま、私は神様である彼女に問い掛けるのである。
「それで?神様が退屈してたから、ここに来たって事で良いんですよね?」
「……はぁ、もうそれで良いわ。妾は確かに暇じゃったからな、暇潰しに様子を見に来たのじゃよ」
「様子を見に?」
「そうじゃ。お主を転生させた者として、妾はお主がこの世界で迎える最期まで見届けるつもりじゃからの」
「はぁ……」
何か良い都合作りに使われている気がするけれど、それよりも私は彼女が神様の言葉にどう反応するのかが気になった。
だがしかし、気にしていた私の空気を察し、サーシャさんはニコリと口角を上げて私の疑問に答えてくれた。
「――私はリーサが、最初からこの世界の住人じゃないって事は知ってるよ。アルファ様から少しだけ聞いてるわ」
「そもそもの話なのですが、サーシャさんと神様の関係は?」
「そうね。アルファ様、私とアルファ様が出会ったキッカケ……それを彼女に説明しても問題は御座いませんか?」
サーシャさんは神様に許可を取ろうとすると、神様は少し考えてから短く「良い」とだけ言った。その様子を傍目で見ながらも、私はサーシャさんの方へと視線を向ける。
許可のような答えをもらったサーシャさんは、パンパンと手を叩いて言うのである。
「――グレゴール、アルファ様と私の親友に紅茶を持って来てくれる?」
「え、この訓練場にグレゴールさんいらっしゃるんですか?」
「ええ、最初から居たわ。まぁ私たちの邪魔にならないように、気配を消してもらってはいたけれどね」
サーシャさん曰く、訓練の集中に介入してしまう可能性があると思ったのか。存在の気配を薄めたうえで、私たちの組手が終わるまで待機をしていたらしい。戦いに集中していたとはいえ、全く気付く事が出来なかったのが悔しかった。
そんな事を思いながら、私はひょこっと姿を現したグレゴールさんに視線を向ける。執事服が良く似合う中年男性だが、それでも年齢よりかは若く見えるのが凄いと思ってしまう。
「グレゴールが紅茶を用意している間、場所を用意しようかしら。アルファ様、差し支えなければお願いしても宜しいでしょうか?」
「……あぁ、仕方無いのう。お主の家の紅茶は美味いからのう。多めに入れてくれよ?」
「はい、グレゴールにはそう伝えておきますね」
その言葉を受け取った神様は、やれやれと諦めた様子で地面に手を当てる。徐々に手を当てられた地面は膨れ上がり、やがて椅子とテーブルのような形になっていった。出来上がった椅子へ腰を下ろしたサーシャは、足をブラブラさせて言うのであった。
「アルファ様に感謝を。――さて、リーサ?私と雑談でもしましょうか。貴女の事を知っている理由の説明するわ」
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