第2話「来ちゃった♪」

 「――はぁっ!」

 「甘いわ!リーサ。その程度で隙を突いたつもり?」

 「まさか……そんな簡単なら、私は貴女に負けてませんよっ!!」


 振るった刀を持ち手で防ぎ、身体を捻りながら反撃を繰り出した。ギリギリに回避する事は出来たけれど、こちらから反撃出来る型が無いから深追いは出来ない。無理な攻撃方法は、自分を苦しめる結果しか生まない。

 常に自分の優位に攻撃を繰り出す事が、勝利への第一歩なのだが……やはり、彼女は強い。

 

 「未来視の魔眼は、今日は使わないんですか?」

 「いつも使っていたら、腕が鈍ってしまうから今日は使わないわ。けれど、それ相応に強いつもりよ?私は」

 「そうですね。ですが、使われないと手加減されてるみたいで……――どっちにしても負けた気分ですけど、ねっ!!!」


 左右に振り回し、体勢が崩れた所で抜刀術を繰り出す。リズムもテンポも悪くは無いのだが、いまいち彼女に通用しない部分が多い。改良の余地はまだあるし、私自身にもまだ動きに曖昧さが残ってる。

 これは、修整して調整していかないと使い道が……


 「――余所見とは無用心ね!」

 「あ、しまっ――」


 訓練の結果は昨日と変わらない。彼女の勝利で終わり、また私は敗北した。ここまで立て続けに敗北を飾る事になるのは、今まで生きて来た中で初めての経験である。


 「はぁ、はぁ、……また負けましたか」

 「リーサは詰めが甘いのよ。もっと集中しないと駄目。それにさっきの、何を考えてたの?私との勝負中に」

 「いや、どうやったら未来視を使ってくれるのかなと思いまして。それを考えていました。そしたら隙を突かれちゃいました、えへへ」

 「可愛い表情をするようになったわね、リーサ」

 「え?何で私、サーシャさんに睨まれてるんですか!?」

 「かーっ!!!グレゴール、この子を養子に迎える準備をなさい!外交問題とか、どうでも良いから!可愛いし、スタイル良いし、強いし、なんなのこの完璧超人はっ!」

 「あ、あのあの、落ち着いて下さいサーシャさん!私、そんな可愛くないですから!」


 ・・・・・・・・・・。


 「はぁ~?!リーサ?この際だからハッキリ言ってあげるわ!貴女はね?かなりの美少女よ?艶々な黒髪に、細いけど鍛えられた身体に、綺麗な黒い瞳!これを可愛くないとか言う男は、イフリートの炎に飲まれて焼かれれば良いわ!はぁ、はぁ、はぁ、……」

 「サ、サーシャさん落ち着いて下さい!皆さんが見てますからっ!?」


 訓練中とはいえ、朝早くから組手をしていれば誰かが見に来るのは必然。そこには騎士科の生徒は勿論、魔法科の生徒も観戦していた。まだ初日なのに、もうここで組手をして貰えなくなる可能性だってある。

 ここは騎士科の生徒らしく、堂々と割り切って……


 「――学園の生徒の方々、私はリーベル王国第一王女、サーシャ・リーベル・テイルと申します」

 「サーシャ、さん?」

 「……一先ずはこの組手を見て下さった方々に感謝を申し上げます。そしてご相談で御座います。私たちのこの組手は、私と彼女の間にのみ交わされた約束のようなもの。他の方々が覗く事は聊か懸念材料となってしまいます。今すぐに身を引いては頂けませんか?もし、この言葉に反論する方が居るのであれば……私は全身全霊を以って、その方のお相手を致しましょう。ですが、私と武器を交えるという事がどういう事か。今一度、ご自身の頭で良くお考え下さい」


 長々と挨拶しながら、彼女は槍を突き立ててそう言った。その瞳と態度には、美しさの中にも鋭さを身に纏っていた。これが私の知らない彼女のもう一つの顔であり、リーベル王女としての言葉の強さだと初めて感じたのだった。

 現に彼女の言葉を受けた生徒たちは、納得している様子を見せないまでも、しっかりと身を翻している。自分の身に何が起こるか、家の評判に繋がってしまう者も、それ以外の者たちも怖じ気付いた様子で身を引いていた。


 「有り難う御座います、サーシャさん」

 「……そこは敬語じゃなくて、柔らかい言葉遣いだと嬉しかったかな」


 やがて、組手を終了しなくてはいけない時間となった時だった。私と彼女が帰ろうとした瞬間、妙な気配を感じた私と彼女は武器を構えたのである。だが次の瞬間、私はここ12年間……胸の内に秘めておいた感情が蘇ったのである。


 「いやぁ……我が娘のように慕ってはいるが、ここまで成長しているとは思わなんだなぁ。のう?我が名を持つ妾の娘よ、リーサ・アルファード・アルテミス。……理沙よ」

 「か、神様っ!?ど、どうしてここに!?」


 目の前に現れたのは、私を転生させた神様。輪廻転生の神様であり、私をまるで娘のように接してくれた優しい存在。神様アルファ、その人だった。


 「てへ、来ちゃった♪……のじゃ?」

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