神様の御使い編

第1話「退屈な時間」

 ――妾は、輪廻転生の神である。


 そんな自己紹介をしなくても、既に聞き及んでいるかもしれないが聞いて欲しい。そもそも輪廻転生とは、それぞれ別の言葉として継承され続けている。

 輪廻とは、命あるものが何度も転生し、人だけでなく動物なども含めた生類として生まれ変わる事であり。そして転生とは、肉体が生物学的な死を迎えた後には、非物質的な中核部については違った形態や肉体を得て新しい生活を送るという事だ。

 その二つの意味が合わさったモノが、この輪廻転生という言葉だ。

 

 人間が日々同じ事の繰り返しを打算的に消化し、惰性的に生きていく世界を生き続けて、最期を迎えた人間の采配を妾が投げる。創造神が何を考え、何を以ってこんな世界の仕組みにしたのかは妾さえも分からない。

 生まれ変わりたいと願うなら、生まれ変われば良いではないか。妾に願うのも良いが、最近の若い者は弛んでいる。怠けているにも程があると思うのだが、誰に同意を求めようとしているのだ妾は。

 

 「……はぁ」


 ところで、どうして妾がこんな愚痴のような説明のような事を口走っているのか、気になった者が居るだろうか。その者たちの為に、妾直々に説明してやるとしよう。何、簡単な話だ。

 妾はつい最近、人間の小娘を一人転生させたのは知っているだろうか?あの者を転生させて早12年が経過しようとしている。人間にとって長く感じる時の流れでも、星によっては一瞬だという話もあるのだが、妾にとっては二桁の時点で長いと思える。

 何故なら、この十数年間……誰も人間が立ち寄る事が無かったのだ。先程、愚痴のようなとは言ったが、もはやこれは愚痴そのものだろう。そう、妾は退屈しているのだ。

 

 「……退屈じゃぁ~~。退屈なのじゃ~~」

 「うるさいですよ、アルファ姉様。少しは大人になって下さい」

 「ベータ。お主は何をしておるのじゃ?」

 「私はお掃除をしているのですよ、アルファ姉様?ですので、そんな所でゴロゴロされてはお掃除が出来ません。今すぐに退いて下さい」

 「馬鹿、止めろ!箒を妾に当てようとするでない!」


 ゴロゴロとしていた所へ、妾の次に創られた輪廻転生の神であるベータが姿を現した。妾よりも背が高く、妾よりもやや優秀。と他の神からも賞賛されている存在である。妹ながら、鼻が高かったり苛立ったりするのである。


 「ったく……毎回思うのじゃが、ベータよ。お主のその格好は何じゃ?」

 「え、知りませんか?メイド服ですよ、メイド服」

 「それは知っておる。妾が聞いておるのは、何故、その格好で掃除をしておるのじゃと聞いておるんじゃ」

 「メイド服を着るのであれば、必ず箒を持つ。そしてお掃除をする。これは、そう!ワビサビなのですよ!」


 ベータは目をキラキラさせながらそう言ったが、妾にはちっとも意味が分からない。日本へ留学してきた外国人でもあるまいし、和風のモノを好き好んで着込んでいる。

 妾が知っているだけでも、数百と越える衣服がベータの部屋にあったのを覚えている。あんな量の服を、一体どうやって着回すのやら……


 「何ですか?アルファ姉様。私の顔をじっと見つめて。――ハッ!まさかそんなっ!いけませんよ、アルファ姉様。姉妹でそんな、禁断の恋など!」

 「誰がするか!お主、ちと日本の娯楽にハマリ過ぎではないか?」

 「何を言うんですか!これは娯楽ではありません!これは、まさしく愛です!メイド服も嗜む私は、日本文化をこよなく愛するに相応しい行為でしょう?」

 「いや、メイドは日本の文化ではないぞ。確かあれは日本ではなく、イギリスじゃろう?」

 「細かい事を気にしてはなりませんよ、アルファ姉様」

 「いや、細かい事ではないと思うのじゃが?」

 「この場合、私が言っているのは――」

 「おい、無視するな」

 「――萌え。そうこれは、萌え文化という物なのですっ!!」


 あぁ、これは始まったらしい。妾の妹であるベータは、妾よりも世界に干渉している。それ故に何かしら気になった物があれば、すぐに手に入れようとする癖がある。その結果が……これである。

 やる時はしっかりとやるのだが、それは長続きする事は無い。続いても3日、あるいは早くて1日でガス欠という状態にまでなってしまう。他の神からすれば、そのガス欠さえ無ければ完璧な神なのじゃがな。


 「萌えはそう、愛です。他人が他人を思うように、萌えも萌えれば萌える程、その愛は深くなっていき満たされる。素晴らしい輪廻という訳です!どうですか姉様!私のこの理論は!……あれ?姉様?アルファ姉様?どこですかっ?」

 

 ――馬鹿馬鹿しい、付き合ってられんわ。


 あれ以上構い続けたら、退屈だった物が苦痛に変化する可能性がある。というか、必ず苦痛になるのが目に見えている。触らぬ神に祟り無し、とは良く言ったものじゃ。

 しかしこうも退屈では、神というのもつまらない物じゃな。そういえば、あれから転生させた者の全く見ていない。良い機会じゃから、この際に遊びに行ってやるとしよう。


 「ククク、きっと驚くぞ。待っていろ、理沙よ」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 「――くしゅん!……っ」

 「お姉様?風邪?」

 「何でしょう。急に悪寒が」

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