第35話:俺たち賞金首じゃ無かったんですね

「なにぃ~!?探し人だっただとぉぉぉ!!」


 タクト達が村に帰ってきた。

 傷を塞いだとは言え大量に血を流した二人の怪我人と迷子の女の子を連れてから数日が経過していた。

 女の子の方はここ数日ですっかり慣れたのか、今では村にある小さな診療所で二人に看病と称してべったりくっ付いている有様で、泣いてばかりだった印象も当初の明るさを取り戻したかのようにお転婆ぶりを発揮させている。

 そんな女の子に看病されている側の男二人はと言うと、当初捕まえられたものだと思い髭面の親分の方は部下のバンダナを連れて逃げ出そうとしたが、一枚の依頼書を見せると口の周りの髭が飛んでいきそうな勢いで声を荒げた。


「親分、俺たち賞金首じゃ無かったんですね」


「ああ、どうやらそうらしいな…」


 どうやらこの二人は王都に工房を構える細工師だったらしい。

 普段取引している材料以外のものを試してみたいと弟子の一人を連れて鉱石を探しに出たのは良いが道に迷ってしまったとの事。

 数日かけてやっとの思いで近くに村を見つけたと思ったら、そこからやってきた冒険者に”あっちから金がやってきた”と言われ勘違いして逃げ出したらしい。

 それ以来手持ちの携帯食料や採取した果物なんかを食べ繋いで偶然見つけた洞穴に細工の練習用に持ってきていた小さな晶石を使って魔物除けを行い何とか過ごしてきたとの事。

 そんな逃亡生活で偶然外で一人の子供を見つけたが、自分たちに賞金でも掛かっているのかと思っていたので村に届ける訳にも行かず、洞穴で保護する事になったのだとか。


「いやぁ本当良かったぜ、本当の意味で胆が冷えてたからな、ガハハッ!」


 お腹を押さえながら豪快に笑う髭面を見て真似するように女の子が笑うと、部下のバンダナが洒落にならない洒落ですよと続く。

 そんなやり取りを見ていたタクトはそっと扉を閉じると冒険者統括組織ギルドの受付に向かう。

 人探しの依頼の終了手続きを行う為だ。

 数日間は村全体もバタバタしていて村長は娘を見て泣いて喜ぶし、村人たちも喜ばしい事だと祭りをしようなどと言い出すし、怪我した二人の看病に村医者が付きっ切りになるしでてんやわんやだった。

 実際祭りは開催される事になったようで、広場で着々と祭りの準備が行われている。

 賑やかな広場の脇を抜けて冒険者統括組織ギルドの扉を開けると、初老の男性がこちらに気が付き笑顔で迎え入れてくれる。

 先に到着していたエリナがテーブルから立ち上がり手を差し出してくると、その手を握って揃ってカウンターに向かった。


「タクト君だったか、そっちの嬢ちゃんが報酬は要らないって言うが本当に良いのか?」


 既に何度も断られたのが判る程の表情で、初老の男性がタクトに向かって聞いて来る。

 男性としてはちゃんと受け取ってくれた方が事務手続き的にもスムーズであり問題も起きないのだが、それをエリナは何度も断っているようだった。


「ああ、祭りにもお金必要だろうしそっちに回して欲しい」


 困り顔の男性はタクトからも断られると仕方ないなと呟いてから了承した。


「正直こう言うのは困るんだが、村への寄付って事にしておく」


 声色まで困っているんだなと判る程であったが、手続きはしておいてくれるそうだ。

 村長が受け取ってくれれば良いけどな等と呟きながら奥のテーブルで書類を纏めだした男性を背に冒険者統括組織ギルドから出る。

 そのまま真っ直ぐ村の門まで向かうと、兵士に一言挨拶をする。

 兵士は祭りに位参加したらどうだと言うが、タクトはそれを断りそのまま王都へと行ってしまう。

 エリナも最初は村に暫く滞在しても良いと考えていたようだが、タクトとしては良い事したからと何時までも居座っていては逆に迷惑になると考えたようで、寧ろさっさといなくなった方が気を遣わせずに済むだろうと話した。

 エリナもミニエルも気にしすぎだとは言うが、結局はタクトの案に賛成する事になり村を出る事に決める。

 そうして歩く事一刻一時間程。

 せめて馬車に乗ればよかったかなぁと内心で考えるタクトであった。

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