第34話:これだから接近戦は………

 一瞬の事だった。

 村から少し離れた街道に近い場所にある森の中の洞穴。

 中を薄っすらと照らすカンテラの明かりが揺らいだかと思うと、弾ける様な音が耳を突き刺す。

 一瞬の強い光の後に闇に閉ざされた空間は、真っ暗闇となり中を窺い知れない。

 入り口に置いてあった小さな晶石は既に蹴散らされたかの如く何処かにばら撒かれており、僅かな月明かりではそれから先は全く見えない。


「やっぱりここか」


 魔法の光源だろうか、淡く光る球体を掌から出現させると空中に浮かせたタクトが同じものを洞穴の中に放り込む。

 中が照らされると男が二人倒れているのが見えた。

 二人とも無数の切り傷を負っており、床面には赤い液体が流れている。


「治療をします。奥はお願いします」


 そう言うとタクトの隣にいたエリナは二人の怪我を治すべく魔法の光を生み出す。

 徐々にであるが傷口が塞がり始めた。

 タクトの方は治療が始まる前に洞穴の奥で異常を感じたようで駆け足で踏み込んでいる。


電撃麻痺ショックボルトの魔法で切り傷は出来ないからな………何か居る!」


 走りながら違和感を整理すると、探知魔法で奥を探る。

 目標の存在らしい反応とは別に何か動くものが居る事を察知すると、光の球体を数個作り一気に投げ込む。

 広い洞穴で無かったようで直ぐに行き止まりに辿り着くと、その光に照らされた床にへたり込んで震える一人の女の子とその前で牙を剥く存在が照らされる。

 しかし見つけた時には既に大きな口を開けて子供に噛みつこうと言う場面であった。

 咄嗟に手から光線を出して阻止しようとするも、齧りつく直前では間に合う訳も無し。

 ダメかと思ったその時、女の子の目の前に青白い光の壁が現れてその牙を弾いた。

 光の壁は一度弾くと直ぐに消えてしまい、身に着けていた晶石が音もなく崩れ去る。

 その間にタクトの放った光線が大人位にはあるだろう大きな四つ足の存在の背中に当たりその毛皮を焼く事でこちらに注意を向ける事が出来た。

 大噛オオカミがこちらを向くのを警戒しながら、直ぐ傍でミニエルが大噛オオカミだと相手の事を教えてくれる。

 動物だった時の狼同様爪と牙に注意すれば良いらしい。

 武多ブタ犯打パンダの様な動物だった時とはかけ離れた動きなどはしてこない様だ。


「こっちだ、来い!」


 大噛オオカミの注意を引こうと大げさな音を立てて声を張り上げる。

 タクトの目論見通り大噛オオカミはこちらに飛び掛かると鋭い爪を振り上げて切り裂こうとするも、後ろに飛びのいてそれを回避する。


魔力連弾当たれ


 幾つかの魔力で作った球体を浮遊させそのままぶつけると、大きく怯んで地面に伏した。

 その隙を見逃さず大噛オオカミを飛び越えると子供の前に躍り出て庇う様に立ちふさがる。


魔力障壁防げ


 女の子の目の前に魔力の盾を生み出し安全を確保する。

 これで万が一に攻撃が向いても大丈夫だと判断すると、起き上がった大噛オオカミに向き直り右手を向ける。

 タクトの体が小さいのを理解してか、はたまた庇う対象が居るから避けられない事を判っているのか、大噛オオカミは一度大きく吠えると思いっ切り突進を繰り出してくる。


「あぶな、これだから接近戦は………」


 思わず愚痴を零すが、確りと魔力の盾を新たに作り出し大噛オオカミの巨体を受け止めた。

 突然目の前に出てきた盾に頭から突っ込んだ大噛オオカミはその場から一度大きく飛びのく。

 距離が開いたのを見逃さずタクトは再び右手を向けると魔法を放つ。


閃光槍連刺光の槍


 再び大噛オオカミが突進してくる前に、その周りに棒状の光を放つものが複数現れそのまま鋭く突き刺さる。

 体中に突き刺さった光が消える頃には大噛オオカミも耐えられずそのまま動かぬ存在となっていた。

 確りと仕留めたのを確認すると、女の子の方に歩みを進めて盾を解除すると手を差し出した。


「ありがとう………おじさんたちは大丈夫?」


 大きく声を上げない様我慢していたのだろう、静かに涙を流していた女の子はそのような事を口にしたのだった。

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