第30話:今の格好良かったですよ

 エリナの特訓は毎回夕食後の暗くなった時間帯から行われる様になった。

 勿論街灯など存在しない迷宮ダンジョン前の僻地と言う事も有り、夜になると手元の灯以外光源が無いためとても暗い。

 そんな中で遠くまで的を飛ばすものだから闇に紛れ視認する事もとても難しい状況だった。

 最初の三日間は太陽が昇り始め景色に色が付き始めるまで、正にお手上げ状態で時折出鱈目に光を放ち的を探すしか出来なかったタクトであった。

 流石に進展が無いのも不味いと感じたのか、ミニエルからエリナはどんな方法でも良いと言っていたと言われ様々な方法を試すようになる。

 最初は明るければ見えやすいと言う単純な理由で空に光源をぶっ放してしまい、昼間同然の明るさにした所で流石にやり過ぎだと怒られたりもした。

 結構な距離村から離れているが、太陽のような明かりを作ってしまっては村にも迷惑だったかもしれないと反省したタクトは次の手段を取る。

 最終的には夜行性の動物をヒントに闇夜でも良く見える様に目を調節し、暗闇対策は事なきを得た。

 それだけでは無く気配のない無機物でも探せるように、潜水艦のソナーの様な音波探知を基にして空気の震えを感知する魔法を新たに作った。

 初めてこの魔法を使った時は、普段笑っているか真顔のどちらかしか見せないエリナの驚きの表情を見る事が出来る程に成果を上げた。

 最終的な調整も済んでおり、今は迷宮ダンジョンに入ってすぐの位置に居る。

 これから特訓の成果を披露するつもりだ。


「多分こんな感じにしたら上手く行く筈なんだよな」


 何をするつもりなのかと楽しみにしているミニエルの横で、頭をフル回転させて想像イメージ通りの結果が生まれるよう道筋を立てる。

 既に探知魔法のお陰で全ての的の位置は判っている。

 多少は動くが、相手はこちらを認識していない為警戒される事はなさそうだった。

 後はタクトの想像イメージ次第である。


「よし、雷撃降下落ちろ雷鳴


 腕を振り上げ、そのまま言葉と共に下す。

 探知魔法で場所を特定された的は全部で三十二匹の犯打パンダだった。

 その位地に上空から複数の雷が落下する。

 近くも遠くも落雷の衝撃で凄まじい振動と轟音を轟かせると、暫くして三十二か所全てから煙が立ち上る。

 もう一度探知魔法を用いて確認しようとするが、必要ありませんとミニエルに止められた。


「本当にやってしまうとは。本当に魔法分野の伸びは異常ですね」


 にっこり笑顔の小さな天使は迷宮ダンジョンに起こり始めた異変を確りと認識する。

 それから少し後にタクトも違和感に気が付き始める。


「これで犯打パンダは全部かな。迷宮ダンジョンの階段のあちら側にも落としたから間違いない筈だ」


 入口に居ながらにして、狭いと言われてはいるが人間が迷宮ダンジョンに居る特定の魔物の位置を全て把握する事自体がまずありえないと思うミニエルではあるが、こうなると本当に人間を完全に辞めてしまっているんだなとネタではない本気の状況に少し申し訳なくなってくる。

 元はと言えば天使ファヌエルの都合でしかも事故で連れてきた存在。

 そんなタクトに人間辞めてまで世界救って下さいだなんて酷い話だと内心を吐露したい所であるが、その気持ちを飲み込むと褒める事で自身の気持ちに棚を作る。


「凄いじゃないですか、今の格好良かったですよ」


 褒められて嬉しかったのか、素直に喜ぶと先ほどから起き始めた異変について尋ねた。


「あはは、ありがとう。所で何か空間が揺れてると言うか歪んでると言うか、なんか変なんだけどこれ大丈夫なのか?」


 タクトは空気の振動のような何とも言い難い現象を肌で感じ取っていた。

 例えるのなら音が全くしていないのに爆音で重低音が鳴り響いているかのようなそんな感覚だった。

 しかしミニエルは全く問題が無いと言う。


「あと数秒って所で帰れますよ、問題があるとしたら晶石回収できないって位ですか」


 話をしている間に見知った顔を見つける事になる。

 気が付くと迷宮ダンジョンの前に戻ってきていた。


「お帰りなさいませ、上手くできた様で何よりです」


 そこをエリナが出迎える。

 何時もの笑顔を見てホッとするのだが、何故戻ってきたのか判らないタクトにミニエルは後ろを振り向くように伝える。

 振り向いた先には、有る筈の迷宮ダンジョンへの入り口となっている階段が綺麗に消え去っていた。


「踏破おめでとう御座います」


 確かに犯打パンダは全て倒したと確信はしていた。

 ガラガラと崩れていく中インディーなんとか宜しく脱出劇が繰り広げられるのを避けようと入口で事を収めようとしたのを考えていただけに少し拍子抜けだった。


「なんか、思ってたのと違う」


 感想を素直に口にすると、現実なんてそんなものですよとミニエルから突っ込まれる。

 エリナもそういうモノですとだけ言い、テントを畳みだした。

 二人が帰宅準備に入ったので、タクトも思考を切り替える事にする。

 今日は村でベットで眠れそうだと思うのであった。

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