第29話:要は得意分野で戦えば良いって事ですよ

 仮眠を取ってからも捜索を続け、結構な時間を迷宮ダンジョンで過ごし入口まで戻ると、エリナが出迎えてくれた。

 テントの前で薪に火をつけると、テーブルの上に料理を並べる。

 この世界では外でも不安なく温かい料理が食べられる事は贅沢な事なのだが、タクトにとっては今の所は小学校で行ったキャンプ程度の認識しか感じていない。

 それはエリナが毎日ちゃんとした料理を用意したり、テント生活でも過不足なく過ごせるようサポートしている為である。

 今もテーブルの上に並べられたサラダと肉料理を食べながら迷宮ダンジョンの進捗具合を話していた。


「もう犯打パンダを倒せるようになりましたか」


 犯打パンダとの戦いをやや脚色が付いた感じで身振りを交えながら話すタクトにミニエルもノリノリで話を合わせると、一言一言に頷き確りと返事をする。

 エリナは犯打パンダを倒すまでもう少しかかると予想していたらしく、喜ばしい事ですと素直に褒めてくれる。


「では今回の趣旨もご理解頂けましたか?」


 この様子なら大丈夫だろうと判断したエリナであったが、この問いにタクトは思い浮かべるものが特に無かったようで困惑の表情を浮かべた。

 考え込む姿を見て少し残念そうな顔をするも、直ぐに持ち直して声をかける。


「その体格では限界を感じませんでしたか?」


 この一言を聞いて漸く何が言いたいのかを察する事が出来た。

 武多ブタはまだ身を守っていれば何とかなった。

 だがそれは相手が自分と同程度の大きさの相手だったからに過ぎない。

 実際に武多ブタの何倍も大きい犯打パンダを相手にした際は確りと油断なく強化をした筈なのに一撃で骨を折られたのを思い出す。


「確かにな、手足も短いし丈夫とも言えない。早く動ける訳でもないからな」


 自身の手を伸ばして確認するかのようにそう言うと、大人になれればなぁと呟く。


「ですが、武器も防具も持たずに自身の何倍もある相手を倒した。そうでしょう?」


 諭すように優しく言うと、どうやったのかは覚えてますよねと付け加える。

 先ほどまでエリナに語っていた内容を思い出し、今更ながら魔法の力って凄いんだなと改めて認識する。


「つまり魔法で戦えって事か?」


 魔法を使って勝ったのだからそうするべきなのかと問うと、それだけじゃないと返事が返ってくる。

 またも表情を曇らせるタクトを見かねたミニエルが横から割り込むような形で口を挟む。


「魔法の適正は凄いのにこう言うのは苦手なんですから………要は得意分野で戦えば良いって事ですよ」


 実際得意分野と言われても今一ピンとこないタクトは余りスッキリしない感じの困惑の表情のままで、何となく判ったと曖昧な返事をする。


「魔法で戦うと言う事に間違いは無いでしょう。ただ、自身のスタイルを確り知る事は大事です」


 要は戦い方の指針を自分で選ぶ必要があったのだとミニエルから話を纏めて貰い漸く理解するに至る。

 確かに殴り合いの戦いは向かないとここでの経験で理解できた。

 何方かと言うと二匹目の犯打パンダを倒した時の様に距離を取って戦う方が良いかも知れないなと考える。


「では、食後の運動に今回は的当てでも致しましょうか」


 粗方食べ終えた食器を下げるとスカートを一振りし、そこから円盤状の板を取り出した。

 魔力で強化したフリスビーのような形状をしたそれを、空高く投げると直ぐに見えなくなってしまう。


「一定距離まで飛んだら固定される様に調整された的です、どんな方法でも良いので撃ち抜いてください。」


 そう言いながらドンドン投げて行く。


「超長距離を狙撃出来たのでしたらこの位は余裕でしょう」


 始めは一つ一つ投げていたエリナが急に魔法で円盤状の板を数十個一気に浮かせて空にバラまく。

 その光景を見てヤバいと感じたタクトが急いで目を集中強化するも、半分ほどは追う事叶わずにまず何処にあるのか探る状態からのスタートとなった。


「ちなみに、終わるまで就寝は有りませんので、悪しからず」


 その日、タクトが眠りにつく事が許されたのは太陽が昇り始めてからであった。

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