第28話:確かに言いましたね、それが何か?

 黒い塵が空間に溶け込むように消えて行く。

 足元に転がってくるのは掌で包み込めるほどの小さな石ころの様な見た目をしたもの。

 犯打パンダの晶石だった。


「これで踏破か」


 晶石を拾い上げると天の光に翳すと、淡い青色に透かされた光がタクトの目に反射する。


「え?踏破ですか?まだですよ?」


 唐突なミニエルの冷や水に達成感を根こそぎ奪われてしまうと、信じられないと言った表情で詰め寄った。


「いやいやミニエル、確かに犯打パンダを倒したら踏破だって言ったよな?言ったよね?いや言いました!」


 勢いよく捲し立てるタクトに対して相変わらずの笑顔で宥めると、とんでもない事を口にする。


「確かに言いましたね、それが何か?」


 白々しくミニエル判らない~などと大げさなリアクションを付けて追加するものだから、タクトもこれにはやや怒りが込み上げた。

 真面目にやれと一喝すると、漸くミニエルはふざけるのを止めて無言でタクトの後ろを指さす。


「何だよ、後ろに何かあるのか?」


 振り返るが、タクトには特に変わらず茶色い地面が広がっているようにしか見えない。

 続けてミニエルが両手で丸を作り望遠鏡を覗き込むようなジェスチャーをするので、目に集中強化を使い遠くまで覗き込むように見る事にした。


「何なんだよ一体、流石にクタクタなんだけど………はあああああ!??」


 先ほどまでの戦闘での疲れからか愚痴をこぼしつつ覗き込んだ彼は信じられないものを目にする事になる。

 先ほど倒して、確実に手の中に晶石を持っている。

 思わず掌の晶石を確認するが、確りと存在している。

 なのに。


犯打パンダが居るじゃねーかよぉぉぉぉぉぉ」


 思わず頭を抱えて叫んでしまった。

 倒せば踏破などと言われてしまえば、ゲームで言う所のボスキャラを思い浮かべるだろう。

 タクトも例外ではなく犯打パンダをボスとして捉えていた。

 そんな存在が、実は複数存在するなんて予想していなかったのだ。


「ええ、ですからこの迷宮ダンジョンに居る犯打パンダを全部倒したら踏破になりますよ、大体は階段の下が生息地なんですけど今日は上に何匹か出てきてるみたいですね」


 確りとミニエルの予想通りに思った通りの反応をしてくれるタクトに笑顔を向けると、グッと親指を立てて頑張れと言う。

 頭を抱えたままの彼であるが、案外立ち直りも早く次の手を既に用意している様だった。


「あーあーあー頑張りますよー、でも今日はもう疲れたからこうやって終わりっ!」


 目の集中強化を更に強めて犯打パンダを確りと視認すると、右手を突き出す。

 既に想像イメージは固まっている。

 先ほどの戦いで十分な成果を上げたソレを使う。


空間魔力束縛バインド


 超長距離からの突然の束縛に驚く暇もなく捕まった犯打パンダは事態を把握できず吠えるが、遠すぎてタクトの耳にはその声も届かない。

 確りと空間に固定されたのを確認すると再度右手を突き出して想像イメージを膨らませる。


魔力飛刃切り裂け


 右手を起点とした魔力の刃が空を裂き犯打パンダに迫る。

 無論避ける事叶わず、そのまま胴体を二つに分けられると、そのまま塵となった。


「うん、戦ったら大体どれ位で倒せるか判るようになるもんだな」


 想像イメージ通りの結果を得られて満足したタクトは、バッグからシートを取り出すと地面に引いてその上に寝転がる。

 結構な疲れがあったのだろう、空を見上げると疲れたと自然と口から言葉が零れた。

 その様子を見ていたミニエルは、意地悪し過ぎたかなと少しの反省をしていたのではあるが、何ともあっさりとした対処に内心では喜んでいた。

 口に出して褒めれば調子に乗るかもしれないと自重はするが、既に合格ラインは超えていると判断する。

 なお、ミニエル基準で考えるに一度戦ったからと言って二度目は楽勝なんて普通にあり得ない。

 タクトの適応能力も人間辞めてませんかと問いたくなるミニエルであるが、そこは言わないでおいた。


「そうですね、頑張りましたしゆっくりしてて良いですよ。少しの間なら見張りをしておきますから」


 タクトの傍までひらひらと飛んできたミニエルが耳元で優しく呟くとタクトは曖昧な返事をしてそのまま寝入ってしまった。

 寝顔を確認すると、静かに周りに魔物除けの結界を再現し安全を確保する。

 そして静かに目を閉じて何処かに語りかけるのであった。

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