第27話:上手い手を考えましたね

 まさかの自爆特攻にも聞こえる台詞が耳に入ってきて思わず声の主を疑ってしまいそうになる。

 確かに力業でも良いとは言ったが、結果として自身が倒れてしまっては本末転倒となるのは判っている筈だ。

 何か言いたそうな目線を送るタクトに対し、確り考えがあるとアピールするミニエル。


「要は壁が壊れない程度に無差別に攻撃したら良いって事ですよ」


 頭上を飛び回りながら過激な発言をする小さな天使の提案にタクトは一考の余地ありと判断すると、自分自身で割と面倒な事が嫌いな性格しているなと思いながらも良さげな想像イメージを探り出す。

 外では犯打パンダが二足歩行になり拳法のポーズなどを取って殴りつけて来るが、依然として壁は破られていない。

 何とか壁をぶち破ろうと連打を叩きこんで来るので衝撃音がとても煩い。


「取り敢えずこんなので良いか、魔風爆薙ぎ払え


 タクトを――正確にはタクトが発生させた壁を中心に魔力による爆発を発生させる。

 その爆発を起点として轟音と共に爆風が撒き散らされた。


「グァァ?アアアアーーー」


 犯打パンダが後ろ足で踏ん張ろうとするが、土煙を起こしつつ地面を抉りズルズルと下がっていくのが見える。

 取り敢えず壁から引きはがす事には成功したものの威力は期待した程は出なかったようだ。


「あまり効いてませんね、直ぐ反撃来ますよ」


 タクトの頭に乗っかったミニエルが状況を話す。

 じゃあ次はこうだとばかりに右手を前に伸ばすと、新たな想像イメージを組み上げる。

 何となくで出した爆風がこの威力ならと、確りと練り上げた想像イメージを前世の記憶から持ってくる。

 よく遊んでいた格闘ゲームのキャラクターが使う必殺技を再現しようと試みた。


音速魔砲射撃ソニック・ブーム・ショット


 見えない壁の外に圧縮し密度を上げた小さな魔力弾を生成し音速を超える速度で飛ばす事により、空気の壁を凄まじい音を立てて打ち壊し引き剥がした犯打パンダへと飛ばした。

 丁度こちらに突進しようと勢いをつけた犯打パンダの黒い瞳は魔力弾を認識するも早すぎて避ける事叶わず。

 但し狙いが甘かったのか右前足を吹き飛ばすに留まった。

 苦しむ犯打パンダは足を一つ失いバランスが取れずにその場で蹲る。

 苦しみの雄たけびがタクトとミニエルの耳を劈く。


「止めだ、ってえええ?」


 もう勝てると油断したのか、タクトが壁を解除しその分の魔力も注いで更なる追撃を繰り出そうとしたが、目の前で起きた出来事に思わず手を引っ込めてしまう。


「グルルルル…ガアアア!!」


 唸り声を上げながら起き上がった犯打パンダは、失った筈の足を黒い影の様なものが補うと、そのまま突っ込んできたのだ。

 予想外の事にタクトは驚き再度目の前に盾を生成し突進を防ぐ。

 慌てて出した盾は音を立てて崩れさるが、一度のみではあるものの役目を確りと果たした。

 防がれたもののお構いなしにとそのまま左足を軸にした飛び蹴りがタクトの頭上を襲うも、しゃがみ込む事で何とか回避する。

 そのまま踵落としに移行されるのだが、それも確り盾を生成し防げた。

 どこぞの映画俳優かと言わんばかりの軽やかな動きで左足のみでぐるりと宙返りをしながら一度距離を取ると再びカンフーを連想させる構えを取りこちらを睨みつけて来る。

 それを見ながらタクトは後ろに飛びのきつつ構えを取ると、爆発しそうな程激しく動く心臓を押さえつけんばかりに落ち着かせようとする。


「動きが早いならこうだ」


 空中に跳び上がり回転蹴りを放つ犯打パンダの姿を眼前に捉えたタクトは、焦る気持ちを必死に抑え込み新たな想像イメージを組み上げる。


空間魔力束縛バインド


 勢いよく回転を加えた太い後ろ足はタクトに届く事はなく、空中から一気に伸びる魔力の鎖に縛られ動きを封じられる。

 何度も足掻くが、確りと縫い付けられたように固定されたそれを剥がす事が出来ずにいる姿を見てホッと胸を撫でおろす。


「束縛ですか、上手い手を考えましたね」


 激しく動くたびに上空に避退しているミニエルは、これまでの行動を見て確信する。

 矢張りタクトには溢れんばかりの魔法の才能があると。

 魔力で鎖を作る位なら出来る人も多いだろう、だがそれを空間から発生させそのまま縫い付ける所まで瞬時にやってのけるには反復練習等で関連付けるなどしない限り難しいものである。

 一つ一つの事象を瞬時に組み合わせる判断力も確り備わっているんだと言う事だろう。

 これは育成方針を変えた方が良いと考えるミニエルの内心を知らないまま、タクトは動けなくなったパンダに右手を突き出した。


「今度こそ止めだ、貫通型魔力砲閃光よ貫け


 右手から生成された眩い光が空へと立ち上る。

 地上から駆け抜ける流星の如く光が空へと吸い込まれる。

 光が薄れた時、そこには犯打パンダの姿は無かった。

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