第26話:力業で全然良いだろ、今は結果が欲しい。

「なあ、魔法って何でもありなんだよな?」


 何度か手本を見せるミニエルに、難しい顔をしながらふと思いついた事の道筋を立てようと聞いてみる。


「ええ、まぁ想像イメージの範囲内で魔力の影響が及ぼせる限りって条件付きですけど。例えばですけど、世界滅ぼそうとしても天使ファヌエルブロックで逆にやられちゃったりとかは勿論あります」


 物騒な例え話を交えつつ説明を聞くが、この内容なら恐らく大丈夫だろうと判断する。

 先ずは言われた通り想像イメージする。

 前世で扱った事があるビデオを頭に浮かべると、巻き戻しボタンを押した時のテレビ画面を見ているような感覚を思い出す。

 そしてその画面の都合のいい所で停止ボタンを押して再生する。


時空間操作巻き戻し


 タクトの左足と右腕が巻き戻っていくように正常な状態へと戻っていく。

 ミニエルの表情が驚きのあまり固まっているが、タクトはそれに気が付いていなかった。

 痛みは引き色も元通りになると、何度か踏み鳴らし手を上げ下げして具合を確かめる。


「うんうん、良し治っ………いたっ!痛い、ヤバむっちゃ痛い!」


 何度か確認していたが、問題ないかと思った処で急激に痛み出す。

 壁の揺らぎが強くなり強度が更に下がってきたような感じがして、残り時間が少ない感覚にとらわれる。


「ま、まさかの時間操作ですか。タクトさん魔法の才能溢れすぎてません?」


 漸く口を開いたミニエルはタクトのやった事について解説を始める。

 本人は怪我を治したいのだろうが、別の方向性からのアプローチにミニエルは予想外だったと語る。


「巻き戻した時間がまた再生されて怪我も再現されたんですね。巻き戻して固定化して怪我した部分を切り取って削除したら一応怪我は治りますけど。力業過ぎません?」


 力業でも何でも良いから治したいと言いながら、今受けたアドバイスを基に想像イメージを組み替える。

 ビデオの想像イメージからPCパソコンでの画像編集の想像イメージに切り替えると、もう一度集中して魔力を操作する。


「力業で全然良いだろ、今は結果が欲しい。………こうかな。時空間操作巻き戻し・切り取り・固定化


 先ほどと同じように怪我が巻き戻る様に治っていく。

 そして全く問題ない状況にまで巻き戻ると確りと固定出来た様で、今度は直ぐに痛み出すような事も無かった。

 何度も腕を振り回し足で地面を踏み鳴らすも問題ないようで、今度こそ確りと治ったと確信する。


「本当にやっちゃうとは思いませんでした、戻すだけじゃなくて切り取るって想像イメージするの凄く難しいし、失敗したら手足ぐにゃぐにゃでしたけど。」


 軟体動物みたいなものの真似をしているのか、手足をぶらぶらさせるミニエルはタクトのこの世界を基準にした場合、異常ともとれる想像力があるのだと認識する。

 少なくともこの世界の住人に簡単に時間を操作すると言う認識を持てるものは殆ど居ないらしい。

 この世界にとって時間とは前に進むものであり、そもそも戻せるものではないと言うのが常識であるからだ。

 それを常識にとらわれずにやってのけたタクトは、やはり前世で違う世界の経験があるからこそできた事なのかとミニエルは考えるが、現時点で答えは出ない。


「うーん、思った事と違いましたけど。結果出てるから何も言えないのも。もどかしいです」


 困り顔で考え込むミニエルを横目に、未だ見えない壁を叩き続ける犯打パンダを確認する。

 怪我が治って気持ちも落ち着いたのか、壁の維持にも余裕が出てきたようで先ほどより確りしている感覚があった。

 相変わらずの衝撃音ではあるが、これなら次の行動もゆっくり考えられそうだ。


「よし、折角だから次の手をゆっくり考えてみるか」


 最初に襲われた時に比べて随分余裕を感じる行動であるが、割とタクトにとって安全圏を確保できた事は心にゆとりを持たせるには大きい出来事であり、また自分の力が通用していると言う感覚も得られた様で安心できる材料の一つになっていた。


「普通の人がこれだけの規模の魔法何か使ったら、あっと言う間に魔力枯渇で維持なんて出来ませんけどね」


 考えるのを止めたのか、ミニエルが魔力の流れを見ながら指摘する。

 タクトはこの世界でも屈指の魔力量と言われていたが、実際には屈指処か上から数えた方が圧倒的に早い位置に居るのではとミニエルは改める。

 天使ファヌエルが最初に与えた魔力が予想以上に成長しているようだ。


「出来れば壁を使ったまま攻撃したいんだよな、壁取ったら怖いし」


 もし壁が無くなったらと考えて少し青ざめると、魔力操作を繰り返し更に頑丈にする。

 心なしか衝撃音が小さくなり、壁が更に固く分厚くなった事を実感させる。

 更に魔力を注ぎますかとその用意周到と呼ぶべきか小心者と呼ぶべきか判断に迷うのではあるが、それならとばかりにミニエルが一つの案を出す事にした。


「だったらタクトさん、自分自身も一緒に纏めて薙ぎ払えばいいじゃないですか」

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