第25話:も、もう一回だ。
地面に僅かなひび割れを起こし、親指の幅程程度に足がめり込む。
支える左足は僅かな音が響き痛みが走り、受け止めた右腕からはボキリと鈍い音が鳴った。
「ぐぅ………ぅぅ………!!!!!」
そのまま地面に着地した
右足に力を籠めて何とか転がり避けようとするが、跳ね飛ばされてしまい顔を苦痛に歪ませる。
「
上空に浮かび上がったミニエルがのんきに応援する中、立ち上がったタクトは怪我の具合を確認する。
左足は激痛とまでは行かないが痛みによる違和感がある。
恐らく骨にひびが入ったのではないだろうかと推測。
右腕はやや紫寄りの色が薄っすらと見え明らかな激痛が走る。
明らかに骨が折れているのが判る。
「くっそ、二百倍でも足りないのかよ」
左手のみで構えながら愚痴を吐き捨てる。
頭の上から大人と子供の差はどうしようもないですとミニエルの声がするが、上手く耳に入ってこない。
単純に考えて握力一桁の子供が一般的な接近戦闘を得意とする冒険者の握力と比較すれば五倍程とまでは行かないまでもそれなりの差があって当然である。
仮に五倍としても二百倍の強化を使用すれば、タクトが大人であった場合、千倍程の効率になってしまう訳だ。
実際殆どの冒険者は千倍もの強化など不可能だろう。
そもそも二百倍と言う倍率が既に一般的な常識を大きく超えているのだ。
大人でも四十倍程度は必要な強化を既に行っていてこの痛みではあるが、それでも大人の肉体が羨ましいと感じてしまう。
「やれる事を再確認!手段は幾らあっても良いんです」
ミニエルの助言が飛ぶと同時に
風を切り進むような速さのソレを避けるのは無理だと判断したタクトは左手を突き出す。
「こう言う事かよ、
馬車で冒険者が魔法で作った盾を使っていたのを参考にして、前世でよく見ていたアニメのキャラクターの真似をする。
目の前に現れた透明な壁に頭から突っ込んだ
急に現れた壁を何度か殴りつけるも壊せないと判断したのか、一度間合いを取り上空へと大きく跳び上がる。
正面がダメなら上から襲ってくるつもりなのだろう。
「も、もう一回だ。
上空からの一撃を見えない壁で再度受け止める。
先ほどより大きな衝撃音が聞こえて来るが、壊れるような様子はない。
「グオォォォガァァァァ」
何度も前足を振りかぶっては殴りつける
壁の強度は十分だなとタクトは判断し、次の魔法を集中して
「
少しの時間を使ったが
全方位を覆ったソレは先ほどの壁より硬く
すると安心したのか、足と腕の痛みを思い出したかのように蹲る。
「いってぇぇぇ…。取り敢えず安全にはなったが、これからどうするか」
一瞬痛みで維持が疎かになり壁が揺らぎそうになるのを抑えると、痛みに耐えながら次の手を考える。
「上手い事やりましたね、まさか全方位を覆って安全地帯を作るとは思いませんでしたよ」
上空に居た筈のミニエルが何時の間にかタクトの傍に現れており、怪我の状態を見ながら褒める。
褒められたが嬉しさより痛みとこれからの事で頭を一杯にしているタクトは反応する事なく考えを巡らせる。
壁の内外に衝撃音が鳴り響く中で、暫し考えた後ミニエルに怪我を治してもらおうと提案するも断られる。
時間が出来たのだから自分でやってましょうと言われ、何となく
「
再度試してみるも、キラキラと光を放つだけで怪我の状態は変わらぬまま。
外では
まだまだ壁は健在だが、いつまで集中力が続くかは判らない。
タクトに少しの不安がよぎった。
「光を
お手本ですよとミニエルが魔法を使う。
転がった際に出来た擦り傷を魔法で治すと、光ったりなどせず傷が癒えて行く感覚だけがあった。
「あーそう言う事か、怪我が治る
お手本の真似をして何度かやってみるもどうにも上手く行かない。
寧ろ試す度に集中力が落ちてしまい維持が揺らぐのか、壁が少し歪になり強度が下がっていく気がする程であった。
もう一度とミニエルに頼むと別の位置にあった擦り傷を治してもらう。
徐々に傷口が塞がり綺麗に治っていく過程を見ていたタクトは、まるで前世で子供の頃に触っていたとあるものを思い出す。
そして一つのアイディアが思い浮かんだ。
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