第24話:しかもすっごい跳んできてる!!

 茶色い大地を踏みしめる。

 踏みしめる。

 踏みしめる。

 ただただ突き進む。

 かれこれ数刻数時間程は歩いただろうか。

 時折姿を見せる武多ブタの相手も慣れてきて、手に入れた晶石も二桁を超えた。

 そしてタクトは只管に前に進み続ける。

 ずっと歩き続ける。


「疲れた」


 全く変わり映えしない空に地面と言った景色にも飽きていたタクトは、一言呟くとそのまま地面に座り込む。

 最初こそ会話もあったのだが、何時までも話のネタがある訳でもなく、また初めての迷宮ダンジョン探検で上がっていた気分も変わり映えしない環境が続けば落ち着くと言うもの。

 元々インドア派でもあるタクトは外にそれ程の興味もなく、割と飽き始めていた。


「そうですね、ここはずっと茶色い地面が広がってるだけの迷宮ダンジョンですからね。飽きもしますよね」


 途中からタクトの肩に捕まっているだけだったミニエルも、うんざりと言った表情でふわりと浮かび上がる。


「休憩しよう、気分変えないときついって」


 疲れを表情にそのまま出してバッグを漁ると、紅茶の入ったカップを取り出す。

 エリナが用意した淹れたてをそのまま入れておいたので熱も香りも損なわずに保存されているソレに口をつけると、同じように取り出した小さなテーブルに置いた。

 ミニエルにもサイズを合わせたカップに入った同じものを用意すると、テーブルの上に飛んできてゆっくりと飲み始める。


「ふぅ、やっぱり紅茶は美味しいですね。エリナさんも中々にお上手で」


 すっかりくつろぎモード言った調子の二人は座ったまま辺りを見渡す。

 遠くでブヒブヒと鳴き声が聞こえて来るものの、今の所近くには居ない様だ。


「なぁミニエル、この迷宮ダンジョンってどれ位広いんだ?」


 カップを片手に持ち上げたままのタクトが迷宮ダンジョンの規模について触れると、狭い方ですよと答えが返ってくる。


迷宮ダンジョンの階段を見つければ直ぐなんですけどね」


 迷宮ダンジョンの階段とは迷宮に入る際に下った階段の様に迷宮ダンジョンの中に設置された階段の事である。

 シンプルに判りやすく迷宮ダンジョンの階段と呼ばれているが、こちらは入口の方とは違い人が二人並んで進むのがやっとと言う程の幅しかない。

 そんな風に本に書いてあったのを思い出したタクトは目に魔力を宿し、集中強化を行い更に周りを見渡す事にする。

 遠くに居た武多ブタの姿を視認する事が出来たが、階段らしきものは見当たらない。

 最も下りの階段であれば上り階段より見つけ難いものだろうと、諦めかけた時だった。


「ん?何だ??」


 強化した状態でも中々見え難い程遠くに違和感を感じる。

 何やら武多ブタではない何かの姿が見えるのだが、遠すぎて何かまでは判らない。


「どうしました?何か面白いモノでも見つけましたか?」


 紅茶のお替りを魔力を使って遠隔でバッグから取り出したミニエルが、タクトの反応に興味を引かれたのかそちらの方を向いた。

 遠すぎて良く見えないと言うタクトに変わり、ミニエルも目を集中強化して覗き込む。

 小さな天使の目に白と黒の毛皮に覆われた魔物の姿が写った。


「あー、今日はこちら側に居るんですね」


 強化を止めたミニエルは再度紅茶を口にする。

 結局よく見えなかったタクトは何が居たのかを聞くも、後のお楽しみですよとだけしか教えて貰えなかったが、この退屈していた所への変化と言うものもあり興味を抑えきれないのかグイっと紅茶を飲み干す。

 立ち上がるタクトを目にしてか、ミニエルはカップを手にしたまま浮かび上がるとタクトの横へと並んだ。


「折角のネタが舞い込んできたんだ、ちょっと覗いてみよう」


 言うや否な歩き出すその足取りは、先ほどに比べるととても軽やかなものとなる。

 矢張り何かしら目の前に目標があるとこうも違うのかと感じるが、まさにその通りなのだろう。

 だが、集中強化を使いこなせているとはまだ言えないタクトの技量でも見渡せる範囲は広く、実際の位置は相当遠くにあるように思える。

 この迷宮ダンジョンは狭い方だとミニエルは言っていたが、子供の体であるタクトには十分すぎるほどの広さを感じさせた。


「なんだか静かだな」


 更に進む事一刻程。

 段々と近づいて行く実感が湧いて来た頃、タクトは周りの変化に気が付いた。

 時折聞こえてきていた武多ブタの鳴き声が全然しないのである。

 それ処か静まり返っている様で、自らの足音がやけに大きく感じる程であった。


「あれの近くに寄りたがらないんでしょうね」


 ミニエルが指さす方向に目を向けて集中強化で見れば、白と黒の毛皮に包まれた魔物が確かに見えた。

 真っ黒な二つの目がこちらを見つめる。

 違和感を感じたタクトは急いで強化を二百倍まで跳ね上げた。


「あれ、パンダじゃねーか!しかもすっごい跳んできてる!!ヤバい!!!」


 タクトの目には前世なら中国の竹林に住んでいそうな大きなパンダが写った。

 但し、パンダもこちらを見つめており、ニヤリと口の端を上げると急に跳躍し空を舞ったのだのだが。


「そうですよ、犯打パンダですよ。この迷宮ダンジョンの核ですね」


 慌てるタクトを見てニコニコと笑みを浮かべるミニエルがサラリと言ってのけるが、それ所じゃないタクトは全力で防御の構えを取る。

 交差させた腕に空中からの犯打パンダの太い前足がぶつけられ、タクトの足は地面にめり込んだ。


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